第32話 駿府城大広間、再び !

【左近side】


 徳松さん……いや上様綱吉とわたしが持ち込んで来た案件で、隠居した義光さま(家光さま)も宗矩おじさまも、伊豆守さまも頭を抱えてしまった。


「北条が謀反を企んでいるのは、忍びからの報告で知ってはいたが、隠している埋蔵金の行方を持ってくるとは想定外にも程があるぞ !」


 義光さまが半ギレにオコだけど何でよ !?


土肥とい金山だと ! 足利幕府が堀尽くしたと報告があったはずだが、やはり嘘だったのか !」


 伊豆守さまが悩んでいるようだけど、末期の足利幕府は貧乏だったから騙されても仕方ないわね。


「はっ、あらためて調べ直したところ、土肥の大横谷、日向洞、楠山、柿山、鍛冶山等五ヶ所を開発、土肥の金山が本格的に採掘されていたようです。

 四百万両と云うのも、あながち嘘ではないかと推察します 」


 伊賀の服部半蔵さんが報告している。

 仕事が早いわね、半蔵さんも !


「石川五右衛門の一味が五千両を盗んだと言うのも、嘘と申すか !? 」


「それは、本当なのですが……」


 半蔵さんの歯切れが悪いわ。


「よい、申せ !」


 義光さまが促すと、


「それが、天竜川の中洲に埋めて隠したらしいのですが、野分のわき(台風)による氾濫はんらんで隠した中洲自体がなくなったので、五千両も流されたのかと 」


 半蔵さんが申し訳なさそうに言うと、義光さまも伊豆守さまも宗矩おじさまも項垂うなだれてしまったわ。


 悪銭身につかず、とはこのことね。


「しかし、土肥金山か。 今、北条に謀反をされても困るのだが、何か良い案はあるだろうか ?」


 義光さまが本気で悩んでいるわ。

 伊豆守さまも宗矩おじさまも目を瞑り考えている。

 下手に指摘しても逆ギレして、本当に謀反をされても困るもんね。


 信長も秀吉も早めに退場したから、比叡山も島津も毛利も元気なのよね。

 今川義元公の朝廷工作のお陰で、他の大物大名を黙らせたワケ。


 誰だって、 には成りたく無いもんね。

 出来るだけ血を流さないようにして、新たに幕府を開いた今川義元公は凄いけど、残された子孫には大き過ぎる宿題だわ !


 皆がだんまりで退屈で仕方ないわね。

 しょうがないわね……


「はい、はい、わたしに良い案があるわよ !」


 何故か、皆が ギョッ としているけど、気にしたら負けだわ !


「……申してみよ、左近 」


「え~とですねぇ~。 金山を火薬で爆発させて埋めてしまえば、万事解決だと思うの。

 どうせ、北条から取り上げることが出来ないのなら、埋めてしまっても問題無いと思うのよね 」


 皆の口が、あんぐりと開いている。

 そんなにおかしなことを言ったかしら。


「左近 ! それは、流石に勿体無いだろう !

 埋めてしまえば、再び掘り返すのには、相当な労力と技術がいるのだぞ !」


 徳松さんがわたしに異議を唱えるけど、


「義元公が、わたし達に宿題を残したように、わたし達も子孫に宿題を残そうと思うの !

 子孫に楽をさせることを考えてはダメに成るわよ !

 美田を残した農民の子が孫が幸せに成るとは限らないわよ !」


 シーン、と成った後……


 ワッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ !


 急に皆が笑いだした。

 わたし、面白いことを言ったかしら……

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