第29話 埋蔵金 ④


「どうでっか、おやじさん ?

 この金で、この木賃宿を売ってもらえまへんか ?」



 商人に言われるも店主おやじは、


「悪い冗談はやめてくださいよ、旦那 !」


 一度は店主も断ったが商人はなおも食い下がり、


「冗談なんかであるもんかよ !

 五十両の大金でっせ ! 」


 その時、商人の後ろから……


「下手な関西弁を話しているんじゃねえよ !」


 商人が振り向くと、怪しげな五人の男たちがにらんでいた。


「おおー、お早いお着きだね。

 五人もそろっていたとは、驚きだ !」


 かしら(リーダー)なのか、僧侶が口を開いた。


「約束の日まで半年もあるのに、てめえこそ早く来ているじゃないか !」


 僧侶に恫喝どうかつされるも負けじと言い返す商人。


「考えることは、皆 同じようだな。

 おい、無動むどう、てめえ、誰かが裏切ったら絞め殺す気でいるんだろう 」


 わずかにひるんだ僧侶を見て、誰もが商人の言うことが、真実だと信じたのだった。


「おい、頓馬とんま

 お前が最初の犠牲者に成るのか、気の毒に !」


「後で、一人また一人と殺されるのが、お前らにはわからねえんだよな !」


 商人の話しに頭に血をのぼらした僧侶たち。

 一人の浪人が刀を抜こうとした時、


「待てぃー ! 」


 主水と正成が現れた。


「てめえらには関係ねぇ !

 じゃまをするなら……」


 双方、構えるが刀に手をのばすのを躊躇ためらっていた。


 にらみ合っていた時間は数分だったか、数時間程にも感じられたようで、しびれを切らした僧侶が、


「ヤメダ、ヤメ !

 こんな事で斬り合いなんかしても損なだけだ !」


 そう言い残して、怪しげな男たちは戻って行った。


 無事にやり過ごせた商人は、


「エッヘッ ヘッ ヘッ、助かります旦那 !

 しかし旦那は、たいそうな腕だね。

 あの浪人ろうにんたちも、剣術やもめ事など やり手なんだが、旦那の構えを見ただけで ビビっていやがった !

 いやいや、お見それしました。

 ……ところで旦那さんたち、いい儲け話があるんだが、アタシと組んでもらえませんかね ? 」


 商人の提案に正成と主水は軽く目を合わせた。


「いいだろう、聞こうか ?」


 主水の返事に気を良くした商人は、


「ヘッ ヘッ ヘッ、こんな所で話すのも何だから、ちょっとその辺りまで行きましょうか 」


 三人は人気ひとけの無い方へ向かって行った。



 ◇◇◇◇◇


【左近side】


 正成さんたちが向かう方を十兵衛さんが予測して先回りしたわ。


 物陰に隠れていると商人らしい人と正成さんと主水さんが来た。


 土手の草むらに身を隠してから、商人が語り始めたわ。


「石川五右衛門だと !」


「八丈島に流刑にされたと聞いていたが……」


 アレ ? 確か、石川五右衛門は豊臣秀吉に釜茹での刑にされたのよね。


「石川や、浜の真砂は尽くるとも、世に盗人の種は尽くまじ」という石川五右衛門の辞世の句からも間違い無い……


 あっああー ! 織田信長が桶狭間を失敗したから、豊臣秀吉も出世出来なかったんだわ !


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