第30話 埋蔵金 ⑤

【左近side】


 わたしたちは、黙って耳を傾けていた。

 商人が、語り出したわ。


「ああ、石川五右衛門のと俺たちは八丈島で一緒だったんだ。

 そして、……俺たちがご放免ほうめんで帰れると決まったある日に、石川五右衛門の息子 六右衛門が俺たちに話したんだよ……


 商人は回想しながら目をつむり話し続けているわ。


「『親父五右衛門が処刑された後、息子の俺や一味の仲間は遠島でバラバラに島流しにされたが、おそらくは生きて居るのは、一番若かった俺だけだろうな。

 佐渡に流された連中は生きてはいないだろうさ。

 だから、俺たちが見つけた大発見を教えてやる !』


 と、病に倒れた六右衛門が教えてくれたんだ 」


 ゴクッ 、誰かが息を飲み込んだ音が聞こえる程に辺りは静まり返っているわ。


「『散々、暴れ廻った俺たちが最後に目を付けたのが、北条の小田原城だったんだ。

 そこで、俺たちは恐ろしいことを知ってしまったんだよ !

 北条氏直ほうじょう うじなお謀反むほんくわだてて大量の金を、に隠していると云うことを !』」



 ええーっ ! ユリリンの言った通りだわ !


「『 聞いて驚け ! その総額は約四百万両。

 さすがに、全部を盗むことが出来なかったから、五千両ほど貰っておいたがな !』」


 400万両 ! 何処の徳川埋蔵金よ !

 ざるそば1枚16文を500円で計算すると、1両は12~13万円。

 だから……え~と、いくらくらいに成るのかしら ?


 ── 4.8E11 円、つまり48兆円だけど、実際は20兆円くらいじゃろう。

 仮にも、元女神なんだから、それくらいの暗算くらいこなして欲しいのじゃ !

 妾は忙しいんだから、手間をかけさせて欲しく無いのじゃ ! ──


 ちょっと、ユリリン、ユリリンってばぁー !

 計算してくれたのは、ありがたいけど、放置は良く無いわよ !


「『俺たちは、もう帰れない。

 この島から出る事は無いだろうから、その五千両は、ご放免に成って内地に帰れる、お前たちにくれてやる !

 金は今川の城下町、駿河のとある木賃宿の……

 仲間のウチの親父がやっている宿だから安心していたが、このていたらくに成るとはなぁ~ 』」


 皆、お目目、パチクリよ !


「内地に帰ったら、一年は大人しくしてほとぼりを冷ましたら、一年後に金を取りに行こうと約束したんだ ! 」


 五千両もの大金なら殺し合いに成るのもうなずけるわね。


「ところが、大根役者と呼ばれていた男が仲間を出し抜こうとしたワケだ !」


 主水さんの言葉に商人……似非えせ商人が驚いている。


「えっ !?

 どうして、それを知っているんだ ?」


「その噂を知って、駆けつけて来たと云うわけだな ?」


「その通りだよ !

 大根役者 気難卓蔵なんぞに一人占めなんて、させるかよ !」


 主水さんの誘導にペラペラと話す似非商人。


「大根役者 気難卓蔵は、お前の言った通りに、仲間の浪人に バッサリ斬られたぞ !」


 正成さんの言葉に似非商人は動揺どうようしたのが遠目にも分かったわ。


 ヒュー !ヒュー!ヒュー!


 一つの投げナイフ?が似非商人の頭に刺さり、残りの投げナイフは主水さんと正成さんを襲ったけど、二人とも避けていた。


 投げて来た方を見ると、


「裏切り者め !」


 アノ怪しい男たちが居た。


「五千両の事を知られたからには、貴様らを生かしておくわけにはいかねぇな !」


 大男の僧侶が錫杖を構えると、他の浪人たちも刀を抜いた。


「助けないと !」


 わたしが出て行こうとすると、徳松さんと弥太郎さんに羽交い締めにされて止められてしまった。


「「「 お前は左近殿は、動かないで ! 」」」


 何でよぉぉぉー !


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