第28話 埋蔵金 ③


「悪い事は言わねえから、早々にここを立ち去ることだな !」


 同心が客である正成たちに言ってきた。


「駿河の町外れの療養所で、苦しんで死んだ奴が居るんだが……

 どうやら、この木賃宿の泊まり客だと云うのが判った」


 その話しに店主おやじも正成たちも固まってしまう。

 同心の話しは続く、


「それだけならまだよかったが、その男が運び込まれた日から療養所に同じ症状の病人が増えてしまったわけなんだ !」


「そ、そんなぁ~ ……」


 この時代、医学が発達していないので、流行り病で亡くなる人が多かったのである。


「おい、そこのふたり。

 おめえさん達も、早いとこ帰った方が身のためだぞ !」


 顔を見合せる正成と主水。


「飲み水は、何処でんでいるんだ ?」


「へい、裏の井戸からでごぜいます 」


かわや(トイレ)は、何処にある ?」


「宿の裏でごぜいます 」


 同心は奥座敷のふすまを見て、


「他に客が居るのか ?」


 と言いながら店主に断りも入れずに襖を開けてしまう。


「‼️」


 中の五人の客と目が合った同心は、あわてて襖を閉めてしまった。

 そして、そのまま来た道を帰るがごとく入り口に向かってしまう。


「じゃあ、邪魔したな !」


 同心が出て行くと奥座敷から三人の男たちが出て来て、同心の後を追いかけて行った。


「中の二人は俺が見張るから、アイツらを追ってくれ 」


 正成の話に黙ってうなずく主水。


 残った怪しげな二人を気にしながら、周りを片付ける店主と正成。



 ◇◇◇◇◇


 ひと気のない林で、同心を三人の男たちが取り囲んでいた。


「なんでぇ、なんでぇ、俺をどうしようってんだよ !」


 強気で言ってはみたものの……


「小賢しい奴め !」


「一人で出し抜こうとは、いい度胸どきょうだな !」


 開き直ったのか、なおも強気の同心が、


「けっ、 なにを言っていやがる !

 てめえらも同じ穴のムジナじゃねえか !」


「まさかと思って追いかけてきたら、やっぱりお前だったとはな !」


「ああ、大根役者らしい、やり口だぜ !」


 どうやら、男たちは顔見知りだったようだが……


 大男である僧侶が同心が持っていた十手を取り上げた。


 バキッ !


 僧侶が十手を折ってしまう。


「やっぱり、偽物の十手か。

 木の十手なんか使っているんじゃねえよ !」


 どうやら、同心は偽物だったようだ。

 偽物の同心が刀を抜いて男たちに斬りかかるも……


 ズバッ !


 逆に、あえなく斬り殺されてしまった。


「後、何人だ ?」


 僧侶が聞くと、


「後、一人だ。

 奴も気になっているはずだから、そのうち現れるだろうさ !」



 怪しげな男たちが立ち去ると物陰から主水が出て来て、斬り殺された偽物の同心を確認した。


「……ダメか

 あの調子だと仲間割れらしいが、奴らの目的は何なんだ ? 」



 ◇◇◇◇◇


 一方、井戸に水を汲みにきた店主おやじの元に怪しげな商人が現れていた。


「どうでっか、おやじさん ?

 この金で、この木賃宿を売ってもらえまへんか ?」


 商人の手には小判の包みが二つ、五十両の大金がのせられていたのだった。


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