第27話 埋蔵金 ②


 ── 長谷川政成 屋敷 ──


 木賃宿の店主おやじが相談に来たのは、偶然にも正成の屋敷だった。


 店主から話しを聞いた政成は、すぐに北大路主水きたおうじ もんどと柳生十兵衛三厳に使いを出した。

 ただ、十兵衛への使いには、


「くれぐれも、上様徳松や左近殿には、気づかれぬように届けよ !」


 と、言い含めたのである。

《 二人共、幕府の重鎮であるにも関わらず、好奇心旺盛で話しがバレたら首を突っ込んで来るに決まっている。

 少しは自身のお立場と云うのを考えて欲しい !》

 と考える正成だが……


 主水と十兵衛が集まったところで、再び 店主に事情を聞くことにした政成。


 店主が恐々と、


「何故か急に怪しげな男たちが出入りするように成ってしまい、そのせいで常連客がすっかり減ってしまったのです 」


「何もしないで、ただ宿にじっと居たんなら、誰だって薄気味悪く思うだろうな。

 十兵衛や主水みたいな人相の悪い奴なら、なおさらだな 」


「「おまえにだけは、言われたく無いわ !」」


 仲の良い三人である。


 緊張がほぐれたのか、店主が話しを続けた。


「このままでは、死活問題で……

 アイツらが何の目的でわしの宿に来ているのか ?

 どうか調べてくださいませ !

 この通りお願いします 」


 深く頭を下げる店主に、正成たちはお互いに目線を交わしてから返事をしようと……


 ガラッ ! ふすまが開き、中から……


「話しは全て聞いたわ !

 この事件は、左近ちゃんと徳松さんに任せてちょうだいな ! 」


 いきなりの左近と徳松の登場に固まる三人。


「わたし達を出し抜こうとするなんて、十年は早いわ !」

 左近の隣でうなずく徳松。


 良く見ると、部屋の隅には気配を消した半兵衛が申し訳ない顔をして頭を下げた。


 もちろん、弥太郎(柳沢吉保)も止めたのだが、暴走する二人を止めるには力が足りなかった……


《 こうなったら、弥太郎も巻き込んでやれ !》

 と考えた、正成、主水、十兵衛の三人は使いを出して弥太郎を呼びだしたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 客のフリをして店の中で酒を酌み交わす二人は、正成と主水だった。

 酔っぱらうわけには、いかないので実際に飲んでいるのはである。

 それでも文句を言わない二人は、左近と徳松のおりをしないで済んだことに安堵していた。


 またしても、じゃんけんに負けた十兵衛は呆然としていたが、大丈夫だろうか ?

 尚、弥太郎は剣術が未熟の為に徳松の側に付いている。

 剣術では弥太郎より徳松の方が上だからだ。


 徳松、左近、十兵衛、弥太郎の四人は船宿から少し離れた所から様子を見ているはずだ。



 店の奥はふすまが閉じられていて、中の様子をうかがうことが出来ずにいる。


「ずっと襖を閉めたままで、五人とも顔を出さないな。

 ようし ! こっちから、どんな奴か顔を見てやるか 」


 主水が立ち上がり、部屋を見ようとした時、


 ガラッ !


「おやじ、居るか !」


 入って来たのは、十手を片手に持った同心だった。


「これは、これは、裏霧うらぎりさま !」


「おやじ、大変な事に成ったぞ ! 」


 動揺どうようする店主おやじを見ながら正成が主水に小声で聞いた。


「知っている仲間同心か ? 」


「いや、アンナ奴は知らねえぞ。

 東も西も奉行所の同心は全員顔見知りだからな 」




 ── それでは、この十手を持った同心は何者なのだろうか ?

 謎が謎を呼ぶ、事件の闇は深まるばかりだった ──


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