第17話 努壺屋 ③

松平伊豆守信綱まつだいら いずのかみ のぶつな side】


 徳松さま始め、吉良の左近や十兵衛らが私に相談に来た。

 自分たちだけで解決しようとせずに、大人に相談しようとしたことは感心するが、ことが事だけに上様にも聞いて頂くことにすると、


宗矩むねのりおじさまには内緒にして欲しいの、伊豆守さま 」


 左近の言いように、思わず笑ってしまう処を我慢して、宗矩には内緒で上様との謁見をしてもらうことにしたのだ。


 左近からの報告を唸って聞いてしまう。

 確かに、これは徳松さまや左近だけでは解決出来ないだろう。


「奉行所で怒壺屋の工房を一斉に捕縛するために、少し待って欲しい。

 すぐにでも隠密を使い調べさせよう。

 京の贋作がんさくを売っている店も京都所司代に手紙を送り処理させよう 」


 私の言葉に安心している若者たち。

 そこで上様が、


「良い機会だ、徳松と左近は元服せよ。

 徳松は、これより今川綱吉と名乗るが良い。

 左近は、これより吉良きら義央よしひさを名乗るが良いぞ。

 尚、義央には、あらためて官位が与えられるだろう 」


 上様の御言葉に喜ぶ徳松さま──綱吉と違い左近──義央は嫌そうな顔をしておる。

 まさか、上様から頂いた名が気に入らないのだろうか ?


「あの~、上様。 わたし、官位はいらないんですけどぉ~ 」


 左近め、いったい何を考えておるのだ ?

 やはり、此奴こやつにはかせが必要だと実感した。

 すぐに人をやり柳沢保明やすあきを呼び寄せた。


「上様。 この若者たちのお目付け役として柳沢保明を付けるのが、よろしいかと。

 徳松さまの側近候補に推挙します 」


 上様は、私の意を汲んでくださり了承してもらえた。


「柳沢保明よ。 徳松に良く仕えるように。

 これより、綱吉の名の一部を与え柳沢吉保やなぎさわ よしやすと名乗るが良い 」


 少々、頭が硬いが、常識はずれの左近の枷に成ってくれよ、弥太郎やたろう(通称)


 ── これが、最悪の組み合わせだと後悔するのは、だいぶ後に成るとは、流石の松平伊豆守信綱も思わなかった ──



 ◇◇◇◇◇


【左近side】


 ウグゥ、やっぱり運命は変えられないの ?

 とうとう元服してしまい、名前まで決まってしまったわ


 上野介こうずのすけの官位もいらないのに、これは別の手段でフラグを折らないといけないわね。


 新しく仲間に成った柳沢吉保やなぎさわ よしやすさんが、あらためて自己紹介をしてくれたわ。


弥太郎やたろうさん、弥太郎さん、これからよろしくね 」


「左近殿、こちらこそよろしくお願いいたします 」


 少々カタイわね。 緊張しているのかしら ?


 ドタドタと誰かが屋敷に飛び込んで来た。


「てぇへんだ、てぇへんだ、親分 !

 怒壺屋の若旦那が何者かに殺された ! 」


「なんだって、半平太はんぺいた

 それは本当なのか ? 」


 問い質す正成さんとのやり取りを、わたし達は固唾を飲んで聞いていたのだった。


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