第18話 努壺屋 ④

【左近side】


  半平太さんに案内されて怒壺屋に行くと、既に東町奉行所の人たちが検分をしていた。

  わたし達を通してくれたのは正成さんの友人の同心どうしんだと云うことだった。


「火盗改方同心の北大路主水きたおうじ もんどです。

  拙者の同僚であり友人でもあります 」


  正成さんの紹介で、あらためて良く見ると……あら、いい男。

 

怒壺屋毒衛門どつぼや どくえもんですが、正面からバッサリと斬られていますな。

  相当な剣術の使い手かと見受けられます。

  特に荒らされた形跡も無いことから、恨みによる犯行かと思われます 」


「今回は東町奉行所との合同での仕事なの ? 」


  令和日本以上に縦割りで縄張り意識の強い組織同士が一緒に捜査するなんて、よほどのことなのね。


「今回の殺しは多岐に渡りますので、手分けして調べなければ成りませぬので、仕形ありませぬな 」


  そうなると、怒壺屋からお金を借りた人かしら ?

  いいえ、それならお金に困っていたはずだから、お金を盗んで行くはずよね。

  では、粗悪品の化粧品の被害者かしら ?

  でも、女の子に重い日本刀なんて振り回せるかしら ?

  わたしが思考の海に入っていると、


「主水。 これはもしかしたら、例の奴らの仕業ではないのか ? 」


「正成さま。 私もそう思っていました。

  あまりにも現場が綺麗すぎますから 」


  え~、名前を言ってはイケナイあの方なの ?

  弥太郎さんが、ソッと耳打ちしてくれた。


「左近殿。 あくまで噂なので内密にして欲しいのですが、町人たちの噂話しだとと言うのが居るらしいのです。

  『晴らせぬ恨みを晴らす』と云うことで、依頼人から金を受け取り殺しをする殺人集団と云う噂です 」



  ええーっ、忠臣蔵の世界に必殺!シリーズなんて、アリなの !


「 口惜しいが、この件はお蔵入りに成りそうだな 」


  徳松さんも処刑人の情報を知っているらしい。


「徳松さん、徳松さん。 伊賀忍者を使って処刑人のことを調べることは出来ないの ?

  今川幕府の権威を守る為にも、法に拠る裁きが大事だと思うのよね 」


  そう。 これは、わたしの為。 忠臣蔵なんて、赤穂浪士と云うを称えるなんて、許せないわ !


わたしが、賄賂わいろを受け取りしていたとか、浅野内匠頭をイジメていたなんてデマなんだから !


わたしが指南していた勅使饗応役ちょくし きょうおうやくの謝礼を貰うのは当然の権利だったのよ。


饗応役の武家の礼法が出来ていなかったから、注意したら逆ギレした浅野内匠頭の方が悪いのに、逆恨みして討ち入りするなんて酷いと思うの !


……と言っても、本物の吉良上野介の記憶なんだけどね。


とにかく、逆恨みで殺されるなんて、ゴメンなんだから !


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