第15話 努壺屋 ①


 正成さんが神妙な顔をして話すことから、複雑なことかと身構えていると、


「表向き、努壺屋どつぼやは化粧品などを売っているのですが、裏では高利貸しをしているようなのです」


 違法だけど、それくらいなら何処の大店おおだなでもやっているでしょう。


「先日、努壺屋に押し込み強盗が入りまして、売り上げ金 三百両を盗まれたと奉行所にも届けが有ったようです。

 すでに城下町では噂に成っているようです」


 ざるそば1枚16文を500円で計算すると、1両は12~13万円。

 13万円だとすると、300両は3900万円に…………

 キャァァァ、大金じゃない !


「それだけなら気の毒だと同情出来るのですが、悪い噂も絶えないのがあるので調べたのですが……」


 正成さんの話しだと、


「努壺屋の化粧品は京から仕入れた品物だと宣伝しているわりに手頃な値段で人気になり当たったのですが、本当は近くの作業場で造らせている粗悪品だと判明しています。

 それに、三百両を盗まれたと言うわりには、茶会などを開いて高価な茶道具などを自慢しているそうです 」


「努壺屋って、300両も盗まれたのに茶会を開くなんて、すごいお金持ちなのね」


「そうじゃないぞ、左近。

 もしかしたら、三百両を盗まれたと言うのはかも知れないぞ ! 」


「その粗悪品の化粧品が気になります。

 それがしの方でも調べてみましょう 」



「それなら、拙者は近所の聞き込みをいたします」


 徳松さん、十兵衛さん、正成さんで、どんどん話しが進んでいくわ。


「はい、はい、わたしは何をしたらよいかしら ? 」


 お仕事、プリーズ !

 そうすると三人で、じゃんけんを始めて……


「よし、決まりだな !

 十兵衛、左近のことを頼んだぞ 」


 十兵衛さんは、じゃんけんした自分の手を見ながら、


「はっ、判りもうした。

 左近殿は某がおもり…………御守りします」


 ◇◇◇◇◇


 十兵衛さんと努壺屋の前に来ているけど、店の前は女性客がいっぱいで入れそうにないわ。


「左近殿、某が化粧品を買ってきますので、お待ちしてください」


 十兵衛さんは、女の子たちをき分けて店に入るつもりだけど、


「それはダメよ、十兵衛さん。

 大男が無理に入ろうとすると、女の子たちが怖がるでしょう」


 十兵衛さんは少し、ホッとした顔をした。

 さすがに、女の子相手にムチャはしたくないみたいね。

 少し離れたところでうらやましそうに見ている女の子たちがいる。

 化粧品なんて、生活に余裕がなければ買えない。

 まして、奉公人には高嶺の花なワケだから、アノ娘たちは奉公人なんでしょうね。


 その中に八百屋さんの お七ちゃんが居るのを見つけて呼び寄せた。


 急に呼ばれたお七ちゃんは緊張していたけど、わたし達の代わりに努壺屋さんへのお使いを頼むことにした。


「そうね、努壺屋で人気の口紅と白粉おしろいを買って来てくれるかしら。

 わたし達が、あの女の子たちをかき分けて買うのは恥ずかしいからお願いね 」


「よろしいのですか、若様。

 あのような安物は町人用で、若様の好い人には不向きかと思うのですが ?」


「ごめんなさいね。 ちょっと気になることがあるのよ 」


 お七ちゃんは、それ以上は聞こうとせずに買いに行ってくれたわ。

 後で、お礼は、はずまないとね。


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