第13話 駿府城大広間

松平伊豆守信綱まつだいら いずのかみ のぶつな side】



「まったく、この悪ガキどもがぁぁぁー !」


 駿府城すんぷじょうの大広間で、幕府大目付おおめつけ 柳生但馬守宗矩やぎゅうたじまのかみ むねのりが、四人の若者に対して怒っている。


「まあ、まあ、おおやけに出来ませぬが、若者たちも正義感から起こしたことですし、それくらいで許してあげてはどうですか 」


 宗矩をいさめている私は笑いを抑えるのに必死になりながら四人の若者を見ていた。


 上座では上様も表面上は渋い顔をなされているが、内心は徳松さまが真っ直ぐにお育ちしたことを喜んでいるのだろう。


 松平徳松さま、吉良左近、柳生十兵衛、長谷川正成の四人は赤穂屋敷に拐かされた娘を見事に救出してしまった。


 本来なら褒め称えるべきなのだが、そういかぬのが政治と云うものなのだ。

 ことが事だけに、浅野家も被害を訴えてこない。

 赤穂藩には、既に公儀隠密こうぎおんみつを向かわせているので拐かされた娘たちも解放されるだろう。

 さしずめ、表向きは『行儀見習い』として赤穂の城で預かっていた、と云うことに落ち着くだろう。

 

 赤穂の塩の作り方は秘伝らしいから、簡単に取り潰すわけにもいかぬのだ。


 義光さまの次の将軍は義綱さまに内定しているが、お身体の弱い義綱さまが長い治世を治めるかは難しいところだ。

 そうなると、義綱さまの次の将軍は必然的に徳松さま……元服すれば、綱吉さまが将軍となる。

 そうなると、この三人が綱吉さまの側近に成るわけだが……このぶんだと、私の隠居も先延ばしに成りそうだのう。


 とりあえずは、徳松さまと吉良の子息の元服を早めるように働きかけるとしますか。

 宗矩が息子を送り込むなら、私も徳松さまの側近に誰かを送り込んでも良いはず。

 流石に私まで身内を送り込むわけには行かぬから、誰か徳松さま達の歯止めに成る者を見繕ってみますか。


 いまだに、クドクドと続く宗矩の説教。

 これに懲りたら、これ以上の騒動は起こしてくれるなよ、と願わずにはいられなかった。





「いい加減にせぬか、宗矩 ! 」


 あまりにも長い説教に上様の方が堪えられなく成り、やっと宗矩の説教が終わった。

 まったく、年寄りの説教は長くて困る。

 若者たちも上様が宗矩の説教を止めたことに感謝しているだろう。


「まだまだ言い足りぬが、上様が『やめよ !』とっしゃるから許してしんぜよう。

 くれぐれも同じ騒動を起こさぬように ! 」


 少しだけ、少しだけ同情するぞ、若者たちよ。


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