第11話 邂逅《かいこう》 ⑤


 お酒を酌み交わしながら、


「十兵衛さん、十兵衛さん、駿河の赤穂藩屋敷からかどわかされた娘さん達は助けてもらえたのかしら ? 」


 十兵衛さんは少し考えた後に、


「おやじどのには説明したから、何らかの手は打っていると思うのですが、流石に赤穂藩にある城までは手がまわらないと思いますぞ 」


 確か、駿河から赤穂までは、だいぶ距離が有ったはず。

 流石に勝手に屋敷を出て旅をするワケにはいかないわね。


「左近さま、屋敷に長谷川正成と云うお方がたずねて来ましたが、お会いに成りますか ? 」


 長谷川さんと云う人は知らないけれど、何故か会わなければと思い玄関に向かうと、十兵衛さんまで付いてきた。


 家来さんに案内されて玄関に行くと、二代目中村吉右衛門さまが居た。


「えっ、えっ、えっ、長谷川平蔵って、この時代の人だったわけ !? 」


 すると、二代目中村吉右衛門なかむら きちえもんさまが不思議そうに、


それがしは、長谷川正成と申す者。 平蔵と云う者は知りませんが…………あるいは、父である正長が某の知らないめかけに産ませた子かも知れませぬ……

 それよりは、吉良殿には御礼と頼みたいことがあり訪問してしまいましたことをお許しください 」


 正成さんは、昼間に助けた娘さんの御礼と赤穂屋敷に閉じ込められている娘さんの救出をお願いしにきたわけね。


 娘さん達を助けるのは大歓迎なんですけど、わたし達は顔がバレているから不味いわね。

 般若はんにゃのお面は有ったかしら ?

 家来さんに探してもらったら、外郎売ういろううりに使う『ひょっとこのお面』と『おかめのお面』『天狐のお面』が出て来た。


 誰かの宴会用かしら ?

 そのお面を見て、わたしの意図をよんだのか、十兵衛さんも正成さんも少し嫌な顔をしている。


 咄嗟とっさに十兵衛さんの手と正成さんの手が『天狐のお面』に伸びて、ふたりが見詰めあっているわね。

 まだまだ未熟ね、ふたりとも。

 わたしは『おかめのお面』を手に取りながら、


「今すぐ、赤穂屋敷に乗り込むわよ !

 今日の昼間の出来事だから、浅野内匠頭も油断しているハズよ。

 兵は神速をたっとぶよ !

 ぐずぐずしていると置いて行くからね ! 」


 わたしが駆け出すと、すぐにふたりは追いかけてきた。


「吉良殿。 つかぬことを聞きますが、赤穂屋敷のある場所は知っておいでか ? 」


 其所でようやく、赤穂屋敷の場所を知らなかったことに気がついた。


「ごめんなさい、知らないから正成さんが道案内してくださいな 」


 ─── 長谷川正成を先頭に赤穂屋敷になった三人の運命は…………どうなる、左近 ! ───


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る