第10話 邂逅《かいこう》 ④

【十兵衛side】


 左近殿と徳松様に護衛を付けて先に御屋敷に帰らせた後、考えこむようにおやじどのが、


「十兵衛よ、どう見る 」


 おやじどの、主語が無いと意味不明なんですが !?

 言わんとしていることが解るのが、微妙に嫌になる。

 最近の左近殿の変化に戸惑っていた左近殿の父である吉良義冬きら よしふゆ殿から相談を受けていた、おやじどのが俺に左近殿の様子を探らせていたのだ。


「はい、おやじどの。 左近殿に関しては邪気を感じませぬので『狐憑き』などではござらんと見受けました。

 少々、変わった方ですが、面白い人物かと思われます 」


 再び考えこむ、おやじどの。

 俺の勘だが、ものすごく嫌な予感が……


「十兵衛よ。 これより貴様を勘当して廃嫡はいちゃくとする。

 これよりは公儀隠密として、左近殿の元に身を寄せるが良い ! 」


 こっ このクソおやじ、 勝手にも程があるだろう !

 しかも、このクソおやじは、一度決めたことはくつがえさない頑固者だ。

 ええー、ええー、わかりましたよ !

 そっちがその気なら、俺も勝手にやらせてもらうからな !

 しばらくは大人しくしてやるが、後から吠え面をかくなよ !


 柳生屋敷に戻り、暇乞いとまごいをした後に身の回りの荷物だけを持って、吉良様の御屋敷に駆け込んだ。


 最初は戸惑っていた左近殿も拙者が誠心誠意頼み込むと、家来としてでは無く、友人として客分の扱いで吉良屋敷に住まわせてもらうことが出来たのだ。

 ただ、それがし上様義光を剣術の稽古で打ち据えて、大怪我をさせたから柳生家から勘当されて廃嫡されたと誤解されたのには、参ってしまった。

 周りの者たちは、俺を乱暴者だとでも思っているのだろうか ?



 ◇◇◇◇◇


【左近side】


 一時は、どうなることかと悩んだけど、十兵衛さんが味方に成ってくれるなら百人力だわ。

 父上に十兵衛さんのことを相談したら、わたしに任せると言ってくれたので家来としてでは無く、友人として屋敷に居てもらうことにした。


 山田風太郎先生のファンとしては、柳生十兵衛は家来の枠に収まる侍じゃないわけ !

 自由な雲のような存在だからこそ縛らずに、仲の良いお友達の方が良いのよね。


 まだ元服前だけど、十兵衛さんとお酒を酌み交わしながら話し合ったわ。


 コミュニケーションは大事よ、本当に。


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