第8話 邂逅《かいこう》 ②


 十兵衛さんが立ちはだかると若侍は悔しそうにしながら、


「赤穂浅野家5万石に逆らうおつもりか !

 そちらも名乗ったらどうだ 」


 ゲッ !! 浅野って、あの浅野なの。


「不味い相手だぞ、左近。

 わずか、九歳で藩主についた浅野長友は、うわさに寄れば家臣の諫言かんげんを聞かずに欲望のおもむくままに手当たり次第に領民の若い娘たちをかどわかしていると聞く 」


「それじゃあ、この駿河でも同じことを繰り返しているというの。

 ここは、赤穂じゃないのよ ! 」


 わたしが、激おこぷんぷん丸ムカ着火ファイヤーなのをたしなめるように徳松さんが、


「俺たちは元服前の子供に対して、相手は大名だからな。

 少々、分が悪い 」


 すると店の中から、わたし達と同じ歳くらいの若侍が出てきて、


「何を手間取っておる、五郎衛門 !」


 どうやら、この若侍が浅野内匠頭あさの たくみのかみと云うワケね。

 元をただせば、コイツのせいで、わたしは殺されたんだわ。

 よく観察してみると、いかにも女の子にだらしなく見える。


「徳松さん、徳松さん、わたし達と変わらない歳で色欲に溺れていて、政治なんて出来るものなの ?」


「政治などは、すべて家老に任せているらしいぞ !

 その手腕のお蔭で、赤穂藩は豊かなのだ。

 だから、奴のことを名君と信じている者も多いのだ 」


 つまり、人助けをした此方こっちが悪者に成ってしまうかも知れないのね。


「だけど、引き下がらないわよ。

 わたし達が引いたらアノ娘さんは、バカ殿の毒牙にかかってしまうのですもの。

『 義を見てせざるは勇なきなり』よ ! 」


 わたしの言葉に、徳松さんも十兵衛さんも目を丸くして驚いている。

 うん、このふたりとは後で、じっくりと話し合う必用がありそうね。


「フッフッフッ。 では、斬りますかな。

 後のことは、後で考えましょう 」


 十兵衛さんが刀に手をかけると、向こうの若侍も刀に手をかけて、店の中や周りに居た赤穂藩の侍たちに声をかけると、わたし達は囲まれてしまった。


「この人数を相手には、どうにもなるまい。

 斬れ、斬ってしまえ !

 この浅野内匠頭に逆らう奴は斬ってしまえ ! 」


 最近の若い子はキレやすいわね。

 死にたくは無い、普通ならここは逃げの一手だけど……

 わたしには、そんなことは出来はしないわ !


 わたしの覚悟を見た徳松さんは、ため息をしながら


「左近。 おまえと一緒だと退屈はしないな !」


 一緒に戦ってくれる気に成った徳松さん。

 ごめんなさい。 あ~あ、ラーメン食べたかったなぁ~


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