第7話 邂逅《かいこう》 ①


「徳松さん、徳松さん。 わたし、お腹が減ったんだけどもレストランとか、あるのかしら ?」


 徳松さんは、あきれた顔を隠そうともせずに、


「また、ワケの分からないことを言い出したな、左近。

 まあ、意味が伝わるから良いが。

 三厳みつよし、この辺りで何か旨いものを食わせてくれる店はあるか ? 」


「そうですな、義元公が考案された柳麺ラーメンの店がありますが、其所そこになさいますか ? 」


 えっ、ラーメンが食べられるの、この時代で !


 わたしが驚いていると何を勘違いしたのか、徳松さんが


「今川義元公は凄いお方で、まつりごとからいくさ処か和歌から食まで、あらゆることに精通して沢山の偉業を成し遂げたのだ !

 食も柳麺ラーメン蕎麦そばうなぎや菓子まで考えたのだからな 」


 やりすぎ!!! 今川義元、本能に忠実すぎるでしょう。


 十兵衛さんの案内で柳麺ラーメンのお店に着くと、若いお姉さんが若侍にからまれていた。


「大変、助けてあげないと ! 」


 わたしが駆け出そうとすると十兵衛さんに止められて、


「ただの町人を助けるのでござるか、左近殿。

 捨て置いても、誰も左近殿を責めたりはしないでござるが 」


「困っている人を助けるのは、人として当たり前でしょう。

 侍とか町人とか関係ないわよ ! 」


 十兵衛さんが驚いた顔をしている。

 わたしの好きな柳生十兵衛。

 あれは、所詮は創作された物語だったの !?

 見損なったわ、十兵衛さん。


 若いお姉さんに絡んでいる若侍に、


「ちょっと、やめなさいよ !

 モテない男が無理やり女の人に迫るのは、カッコ悪いわよ ! 」


 わたしを見た若侍が、一瞬 ギョとしてから恐る恐る話してきた。

 徳松さんやわたしを見て、自分より高貴な身分と思ったようだ。


「どちらの家中の者か存じませぬが、これは浅野家家中あさのけ かちゅうの問題ですので、御容赦ごようしゃ願いたい 」


「見逃せと言うの ? 相手は嫌がっているんですけど !

 事と次第によっては許さないんだからね ! 」


 わたしが引き下がらないものだから、話そうか迷っているようね。


 そこに、娘さんのお父さんみたいな人が、わたしの側に来て膝を付いて頼んできた。


「ご無礼を承知でお願いします。

 娘を娘を助けてくだされ ! 浅野家に連れ込まれて帰ってきた娘はおりませぬ。

 どうか、御慈悲を御慈悲を……」


 若侍が、娘さんのお父さんを黙らせようとしたところで、十兵衛さんが割って入った。


「面白いお方でござるなぁ~、左近殿 」


 真面目くんだと思っていた十兵衛さんは、ニヤリと笑い悪ガキみたいな顔をしていた。

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