第5話 歴史は既に動いていたようです ①


 わたしの洗脳……説得に拠り、子猫の名前を付けた徳松さんは不思議そうに聞いてきた。


「左近、貴殿の猫は『ブラ』で俺の猫が『パン』なのは、女人の下着から付けたのではあるまいな ?」


「そんなワケ無いでしょう !

 アンタ、わたしを何だと思っているのよ。

『ブラ』は伴天連の言葉で黒い色を『ブラック』と云うところから名付けたのよ !」


「それでは、俺の白猫は『パンテ 「下着から

 離れなさいよ、エロ松 !」


「エロ松の意味は解らないが、侮辱されたことは伝わってきたぞ、左近 !」


 ヤバッ、言い過ぎたかしら。

 徳松さんの手が脇差しの方に向かうのを警戒していたら突然、笑い出した。

 ひとしきり笑った後に、


「俺の父上が将軍のせいか、周りの者どもはご機嫌伺いに近づいてくる者か、逆に離れて行く者が多い中で左近だけは変わらない……と云うより遠慮が無くなった気がしたから笑ってしまったのだ、許せ 」


 ホッ、良かった。

 ドラマの綱吉は短気だったから、ヒヤヒヤしちゃったじゃない !


「『パン』と言うのは、伴天連の人が主食にしている食べ物から名付けたのよ。

パンの断面の色に似ているからね !」


「それより、裏表の勝負が先だ !

 今日こそは勝つからな ! 」


 徳松さんは負けず嫌いで、何度も勝負を挑んでくるけど無駄よ、無駄 無駄 無駄 !


 オセロの攻略法は盤上の隅を取ること。

 それに気づかないウチは、ずっ~と わたしのターンよ。

 それに、わざと負ける接待プレイをしても、徳松さんは喜ばないと思うのよね。


 パチリ パチリ、と裏表を指しながら世間話しをする。


「エロ松……徳松さんは、お父上の将軍職を継ぐのかしら ? 」


 脇に控えている徳松さんの家来さん達や、わたしの家来さん達が、必死に笑うのを抑えているわ。


「左近。 おまえ、わざとやっているだろう。

 俺のあだ名がエロ松に成ったりしたら、責任を取ってもらうからな !

 それと、質問だが、父上である義光よしみつの後は、兄上の竹千代……元服したから、義綱よしつなが継ぐから、俺は何処かの大名に養子に行く可能性があるな 」


「ちょっと待って。 徳松さんのお父上である将軍様は、ではないの ?」


「徳川 ? 俺は松平のままだが、曾祖父の元康公が正式に今川家に養子入りしたから、今川義光で間違いないぞ。

『家』なんて、何処から出てきたのだ。

 今川義元公の『義』の字をもらい、父上は義光。

 兄上は義綱と成ったのだ 」


 これは……討ち入りフラグは、折れていたというの ?

 ブラとパンがじゃれている姿を見ながら考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る