雨の日の温もり Part2
ハンスリーは昔から感情の研究に魂を捧げてきた男で、自分のことは常に後で後での生活だった為に、彼は椅子に座りながら眠ることに慣れてしまった。
ハンスリーは目が覚めるとデスクに置いている水筒をとり、水を飲んだ。
窓から外を眺めると一昨日1日前の暗さはなく、とびきりの快晴だった。そして部屋の中を見るとアンドロイドがウロウロしていた。
「もしかしてずっと動いていたのかい?」
反応はない。こちらを気にせずに動き続けるアンドロイドからは電子音はしなくなっていた。
「関節部分の突っ掛かりとかはもうほとんど大丈夫そうだね。ただAIは機能していないのかな?でも動いてはいるからもう目覚めてはいるはずなんだけど…」
ハンスリーの1日はほとんどPCを見て終わる。たまに食事を摂って、排泄をして、それだけだ。
ある日、ハンスリーはアンドロイドを連れて街の外を散歩した。
アンドロイドを外に出すのはさすがに骨が折れた。ハンスリーは渋々アンドロイドに最低限の行動プログラムを組み込み、必要時は自身についてくる様に設定した。
各地にある街の中は人間の作った機械や建物などで構成されて、言わば完成された世界が街々で形成された。しかし、それが原因で街の外は人間社会にとっては退化していった。
人間は自分らでできることを増やしすぎた。その為、植物や動物、運搬経路すらも需要を無くしてしまった。その為に街の外にあるそれらは人間の手がかからなくなり、独自で成長、進化を遂げた。
つまり人間と自然は完全にそれぞれの国家を創り上げたわけだ。
青空の下、緑の平野が広がる片隅に在る1人の人間とひとつのアンドロイド。この様な光景はあまりにも珍妙なものだった。
「へえ、街の外はこうなってるんだな。文献でみた写真とは違うな。専門外だからよくわからないが、きっと地域によって景観は変わるんだろうな」
ハンスリーは物珍しい外の世界をよく観た。草木に花、小鳥でさえも彼にとっては初めて見るものだった。
「これはなんなんだ?ダメだわからない。自然学は世間には浸透していなくて知っている人がレアなくらいだもんな。今度調べない限り私にはこの見たことのない色をした植物?や、あの空を飛行する生き物を見たことがない。いやまて!よく見ると小さな生き物も動いている。足が何本もあるしなんだかアンドロイドみたいだな」
ハンスリーが虫に興味を示しているその後ろで場違いのようなアンドロイドは自身のものではない茶色く錆びた鉄を見ていた。
「あれ、これは錆びてるけど、鋳鉄かな。錆びにくいはずなんだけど、きっと何年も経ったんだろうね。多分これは昔ここに置いてあったベンチなんだろうね。君はどうしてこれを見ていたんだい?」
反応はやっぱりない。アンドロイドはじっと錆びた鋳鉄を見つめていた。
「なんでずっと見ているんだろう。同じ金属だってわかって、何かを感じているのかな?」
ハンスリーはそっとしておいた。白い蝶が飛んでいるのを見つけて追いかけた。アンドロイドの頭にはアゲハ蝶がとまっていた。
錆びた身体に命を 大和滝 @Yamato75
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