そういえば……

「どういうこと?」


 何故かクソみたいな初配信でめちゃくちゃ登録者数が増えている俺の配信アカウントを見ながら、紫永に向くかって俺はそう言った。

 そしてそのまま、何となく何かの間違いかとも思って、サイトを更新すると、また、2000人くらい登録者が増えていた。


「どういうことって、お兄ちゃんがまたバズってるんだよ」


 すると、紫永はなんでもないように、そう言ってきた。

 ……え、俺もしかしてまた、何か馬鹿にされてるのか? ……まさか、あのたぬきのせいか?


「お兄ちゃん? どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 そう思っていると、紫永がいきなりそう聞いてきたから、俺は咄嗟にそう言って首を振った。

 ま、まぁ、俺が笑いものになるくらい別にいいって覚悟して、配信を始めたんだしな。

 これで紫永に買ってもらった機材のお金を返せるなら、全然大丈夫さ。……ほんと、ぜんぜん、大丈夫大丈夫。


「そう? だったら、早く甘味さんにメッセージ、送ったら?」

「……俺なんかのメッセージをわざわざ、甘味ちゃんが見てくれると思うか?」


 ネガティブ……な訳じゃなく、単純に俺みたいな一般人のメッセージなんて甘味ちゃんみたいな有名配信者が見てくれるとは思えないんだよな。

 

「見るに決まってるよ。だって、わざわざコメントまでしてくれてるんだよ?」


 それは……そう、なのか? ……まぁ、ダメで元々なんだし、メッセージ、送ってみるか。

 ……たとえ見られなかったとしても、コメントを無視した、みたいになったことを謝っておきたいしな。

 まぁ、正直に言うと、こんなアカウントで甘味ちゃんにメッセージなんて送りたくないけど、これしか無いし、仕方ないと割り切ろう。


「分かった。送ってみるよ」

「うんっ。きっと大丈夫だと思うよ」


 紫永にそう言ってから、俺は甘味ちゃんのアカウントをタップした。

 えっと、確かコメントを見てなかったことを正直に書いて、謝ればいいんだよな。コメントを見てなかった理由……は書かなくていいか。メンタルがやられてコメント欄を見てなかったなんて恥ずかしくて書けるはずないし。

 

「今度改めてお礼がしたいって言ってたけど、それに対しては返事しないの?」


 俺がそう思いながら、甘味ちゃんに送るメッセージを打ち込んでいると、ひょこっと横からスマホを覗き込んできた紫永がそう言ってきた。

 確かに、俺は実際に見たわけじゃないけど、コメントにはそうやって書いてあったらしいし、ちゃんと断っておいた方がいいよな。


「えっ? お礼、断っちゃうの?」


 そう思って、お礼は大丈夫です、的な文章を書いていると、紫永がびっくりしたようにそう聞いてきた。

 そりゃ、断るだろ。……あの時助けられたのは本当にたまたまだし、お礼をして欲しくて助けたわけでもないしな。


「まぁ、お礼が欲しくて助けた訳じゃないし」

「……でも、お兄ちゃんが配信を始めた理由って、その甘味さんって人からのサインが欲しかったからじゃないの?」

「……あっ」


 紫永に言われて思い出した。

 そういえば、俺が配信を始めようと思った理由って紫永に機材のお金を返すことと、甘味ちゃんからサインが貰えるかもしれないって理由だったな。

 色々と初配信が大変だったりして、一番大事なことを忘れてた。……いや、ほぼ諦めてたってのが正しいかな。


「……お礼はいいけど、サインは欲しいですって書いたら、失礼かな」

「んー、別に大丈夫だとは思うけど、サインをお礼ってことにしてもらった方がいいんじゃないの? 向こうとしても、なにかお礼をしたがってるんだし」


 確かに、紫永の言う通りかもな。

 そう思った俺は、メッセージの内容を変えて、甘味ちゃんにメッセージを送った。

 その瞬間、一気に緊張感が押し寄せてきて、心臓がドクドクと音を鳴らし始めた。


「……お兄ちゃん、大丈夫? 水、持ってこようか?」

「あぁ、頼む」


 俺は紫永に持ってきてもらった水を飲んで、深呼吸もして、もうスマホを置いた。

 そんなに直ぐに返信が来るはずないし、少なくとも今日は気にしないようにしようと思って。

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