だい、せいこう?

「ただーー」

「お兄ちゃん! 初配信、大成功だよ!」


 初配信を終えてダンジョンから家に帰るなり、俺の言葉を遮って、そう言いながら紫永が俺に抱きつくような勢いで近づいてきた。……当然っちゃ当然なんだけど、あくまで勢いってだけで、実際には抱きついては来ていないけど。


「だい、せいこう?」


 あれ、成功なのか? ……正直、全く手応えとか無かったんだけど。


「うんっ。大成功だよ! お兄ちゃん!」


 ……よく分からんけど、紫永が嬉しそうにしてるし、別にいいか。

 

「……その反応、やっぱり、あんまりコメントとか見てなかったでしょ。お兄ちゃん」


 そう思っていると、紫永は突然、そう言ってきた。

 ……いや、ちゃんと見てたぞ? ……ちょっとメンタルがやられて、見てない時間もあったけど、見てる時はちゃんと見てたさ。


「見てたよ」


 ただ、それを正直に言うのは、ちょっと恥ずかしいから、俺はそう言った。

 

「絶対嘘でしょ」

「い、いや、俺が紫永に嘘なんてつくわけないだろ」

「ふーん? そうなの? じゃあ、コメントをちゃんと見てたのに、甘味? って人からのコメントを無視したんだね」

「へ?」


 今、紫永はなんて言ったんだ? 甘味ちゃんからのコメント? ……いやいや、俺が甘味ちゃんからのコメントを見逃すはずないだろう。

 多分、これは紫永なりの冗談なんだろう。

 俺の初配信での緊張を解こうとしてくれたんだろうな。


「はいはい。取り敢えず、続きはリビングでな」


 そう思った俺は、適当に紫永をあしらうようにそう言って、まだ脱いでなかった靴を脱いで、リビングに向かった。

 

「あー! 嘘だと思ってるでしょ! 私だってお兄ちゃんに嘘なんてつかないのに! ……いや、お兄ちゃんは私に嘘ついてるじゃん!」


 一人で騒がしいやつだな。

 まぁ、元気でいいと思うけど。

 そう思いながらリビングに入った俺は、早速椅子に腰を下ろした。


「ほんとに甘味って人から、来てたんだよ? コメント」


 すると、すぐ後を着いてきていた紫永も椅子に腰を下ろして、そう言ってきた。

 ……紫永がこんなに言ってくるってことは、マジ、なのか? ……俺がコメントを見てなかった時と言えば、メンタルがやられてた時、だよな。……そんな瞬間に、たまたま甘味ちゃんがコメントをするとか、有り得るのか?


「紫永、さん? ……えっと、本当、ですか?」

「……ふんっ。お兄ちゃんは私の言うことなんか信じないんでしょ」

「い、いや、信じてるに決まってるだろ。さっきのは、ちょっとした冗談だよ」


 拗ねたような演技をする紫永に向かって、俺はそう言った。……そう、演技だ。長い付き合いだからな。それくらい分かるし、紫永のことを信じてるのは本当なんだよ。ただ、俺が現実を受け入れられない……受け入れたくなかったってだけで、紫永のことは信じてるんだよ。

 

「……助けて貰ったお礼と、今度改めてお礼がしたいです。みたいなことをコメントに書いてたよ」

「甘味ちゃんが!?」

「うん」


 ど、どうしよう。俺、思いっきり甘味ちゃんのこと無視したみたいになってないか?


「今からYで甘味さんに直接コメントを見てなかったことを正直に書いて、返事をしたら大丈夫だよ」


 俺が不安に思っていると、紫永は俺の心の中を読んだかのように、そう言ってきた。

 

「ほ、ほんとか? 今からでも、間に合うか?」

「うん。大丈夫だと思うよ。……はいこれ、お兄ちゃんのYのアカウントね」

「え、あ、あぁ。ありがとう」


 そして、紫永はYのアカウントを開いたまま、そう言って俺にスマホを渡してきた。

 すると、そこには「家出男」と書かれたアカウントが表示されていた。

 …………俺、このアカウントで甘味ちゃんに連絡を取るのか? 死ぬぞ?

 と言うか、なんでこのクソみたいなアカウントにフォロワーが30万人もいるんだよ。配信アカウントの方も意味わからなかったけど、こっちもこっちで意味わかんねぇよ。……つか、なんで配信アカウントのチャンネル登録者よりフォロワーが多いんだよ!?


「し、紫永? なんで配信アカウントのチャンネル登録者数より、Yのフォロワーが多いんだ?」

「え? お兄ちゃん、確認してないの?」

「何がだ?」

「もう! ほら、これ!」


 紫永はまた何か呆れたように、俺に渡していたスマホを取り返してきて、少し弄ると、またすぐにスマホを渡してきた。

 すると、そこにはチャンネル登録者数が45万人に増えている俺の配信アカウントがあった。

 ……なんで今日のあんなクソみたいな初配信でこんなにチャンネル登録者が増えてるんですか?

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