致命的に向いてない

「後、装備とか武器は、普通に持ってない、ですね。まぁ、あんまり危険度の高いダンジョンに潜ることなんて無いですし、今のところ、装備や武器に必要性を感じないですし、これで大丈夫、です」


 スキルもあるし、俺はこのダンジョンにしか来ないからな。このダンジョンの魔物なら、普通に素手でどうにでもなるし。


【あんまり危険度の高いダンジョンに潜ることが無い……?】

【あれ、俺の常識がおかしいのか? ここって危険度SSランクのダンジョン、だよな? ……危険度、高いよな?】

【じゃあ甘味ちゃんを助けた時に持ってたあの斧はなんだ?】


 そう思って、そう言ったんだが、何故かコメントがすごい勢いで流れてくる。

 ……何個かは目を通せたけど、流石にこの速さじゃあ、全部に目は通せないぞ……あ、でも、紫永にコメントは別に全部読む必要は無いって言われてたし、別にいいのか?


 と言うか、このペースでコメントに返事をしてたら、一生ダンジョン探索を始められないしな。

 ……俺としては、さっさとある程度ダンジョンを探索して、配信を終わらせたいんだから。


「えっと、それじゃあ早速なんですけど、ダンジョン探索、していきますね」


 配信を早く終わらせるために、俺はそう言って、いつも通り軽い足取り……いや、早く配信を終わらせるために、いつもより早くダンジョンを進んだ。


 そうして配信をしてることを意識して、適当な話をしながら進んでいると、もはや見慣れた二足歩行の牛、みたいなのが現れた。

 

【ミノタウロスだ! 甘味ちゃんの配信でもこの辺で現れてたし、確定で湧くのか!?】

【武器も何も持ってないけど、ほんとに勝てるのか?】

【あの時の甘味ちゃんの配信がヤラセとかCGじゃなければ、大丈夫だろ】


 二足歩行の牛みたいなのが現れてから、チラっとコメント欄を見ると、そんな言葉が流れていた。

 

「あいつ、ミノタウロスって言うのか」


 そんなコメント欄を見た俺は、思わずそう呟いていた。

 初めて知った。何回も見たことはあったけど、名前とか、興味なかったしな。

 

【ん? ミノタウロスの名前を知らないダンジョン探索者とかいるのか?w】

【草】

【実際いるだろww】


 ……よく分からないけど、馬鹿にされてる。……こいつの名前って常識なのかよ。……独り言が癖になってることにこんなデメリットがあったなんて。

 やっぱり配信はさっさと終わらせよう。

 そう思って、俺は二足歩行の牛……じゃなくて、ミノタウロスをいつも通りグーパンチで倒して、さっきよりスピードを上げて、ダンジョンの二階層目を目指した。


【ミノタウロスワンパンww】

【ん? 何か居たか?】

【おかしいな、ミノタウロスってSSランクの探索者でも一人討伐なら20分はかかるって聞いたんだけどな……】


 多分、今頃も色々とコメントが流れてるんだろうけど、さっきの俺の事を馬鹿にしてきたコメントが割とショックで、コメントが見れない。……また変な悪口が流れてるんじゃないかと思って、怖くて、見れない。

 ……俺、心が弱いから、致命的に配信者とか向いてないよな。


 そんなことを考えつつも、コメント欄を見ないようにして、適当な魔物を葬りながら、俺は進み続けた。

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