俺、こいつら嫌い
コメント欄を見ないように急ぎ足でダンジョンを進んでいると、あっという間に二層目にたどり着いた。
「……二層目に来ました」
一応配信をしてるんだし、なんにも言わない訳にはいかないと思って、俺は呟くようにそう言った。
【二層目まで五分も掛かってなくね?】
【早すぎだろww】
【運良く魔物が全然現れなかったのならともかく、めちゃくちゃ魔物現れてたよな?】
【かなり運の悪い方だと思うぞ。普通あんなに魔物は出ない】
そして、そう呟いた俺は勇気を出して、チラっ、とだけコメント欄を見てみた。
「……急いで来たんですから、早いのは当たり前ですよ」
すると、かなり当たり前のことが書いてあったから、俺はそう言った。
急いで来たのに、遅かったら、意味わかんないと思うしな。
【普通は急いで行ったとしてもそんなに早く二層目に着かないんだよww】
【なんなら死んでると思うぞ。普通ならな】
【割とマジで最速なんじゃないか?】
……なんか色々言われてるけど、そりゃ、普通はダンジョンを急いで進んだりしないだろ。
俺は早く配信を終わらせたくて、早く進んでるだけなんだから。
まぁ、わざわざそんなことを言う必要も無いと思うし、言わないけどさ。……早く配信を終わらせたい配信者なんてなかなかいないと思うし……多分。
「ギャアアアァァ」
そう思いながら、そのまま二層目も進んでいると、そんな人の叫び声みたいな鳴き声を上げながら、俺と背丈が同じくらいのタヌキが現れた。
それを確認した瞬間、俺は何も言わずに、コメント欄に目を通した。
こいつの名前も探索者にとって一般常識だったら、またミノタウロスの時みたいに、恥をかくことになるからな。
【たぬきだぁ】
【可愛い】
【癒し】
よし。
こいつらマジで使い物にならんわ。
何が可愛いだよ! ダンジョンにいる時点で、こいつも魔物なんだよ。可愛いわけないだろ! そもそも、あの鳴き声を聞いて可愛いとか、頭おかしいのか。
と言うか、最悪こいつらが可愛いと思ってても別にどうでもいいわ! それより、名前を教えろよ!
……いや、まさか、こいつの名前、マジでたぬきなのか?
「こいつ、たぬき、なのか?」
そう思った俺は、思わず、そんなことを呟いてしまっていた。
【見たらわかるだろww】
【逆に何に見えるんだよw】
【悲報。家出男、たぬきを知らない】
たぬきくらい知ってるわ馬鹿が! ……もうやだ。俺、こいつら嫌い。
そう思いながら、全ての元凶である目の前のたぬきを俺は蹴り飛ばした。
すると、壁にドゴンッ、といった音を立ててぶつかり、動かなくなった。
八つ当たりが無い……とは言わんけど、こいつだって魔物なんだ。倒すのは当然だろう。
【あっ、たぬきが……】
【動物虐待反対!】
【まぁ、ダンジョンに居るってことは、魔物だからな】
すると、そんな感じのコメントが流れてきた。
動物じゃないから、動物虐待じゃねぇよ。強いて言うのなら、魔物虐待だが、魔物に慈悲は無い。……慈悲なんて見せたら、俺が殺されるかもしれないんだしな。
「進んでいきます」
まだ【たぬきが……】とか言ってる視聴者を放って、俺は歩き出した。
そして、それからは特に何かが現れることなく、三層目に着いたから、配信を切った。
元々、取り敢えずは三層目までの予定だったしな。
「あー、疲れた」
精神的に疲れた俺はそう言って、来た道を引き返していた。
もう疲れたし、さっさと帰ろう。
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