初配信
憂鬱だ憂鬱だと考えていたら、あっという間に時間が過ぎてしまい三日が経った。経ってしまった。
だから、嫌だけど、本当に嫌だけど、俺は配信をする為に、ドローンを後ろに浮かせながら、あの時家出をした近くのダンジョンに来ていた。
そして俺は、そんなダンジョンで往生際悪く、紫永に向かって電話を掛けていた。
「……なぁ、やっぱり明日にしてもいいか?」
そして、そう聞いた。
だって、あれから三日経ったけど、まだ、羞恥心が抜けきってないんだよ。……どれだけ自業自得だと言い聞かせても、なんであの時俺は馬鹿正直に家出をしてきたなんて言ってしまったんだ、って後悔して仕方ないんだよ。
「お兄ちゃん?」
「はい。冗談でございますよ。ちゃんと今日、配信します」
紫永に呼ばれた俺は、思わず敬語になりながら、そう言った。
……別に、何か圧をかけられて呼ばれたわけじゃない。なんなら、いつも通り、普通に呼ばれただけだ。
いや、流石にさ、これ以上可愛い妹にかっこ悪いところは見せられない……っての今更なんだろうけど、そう思ったんだよ。
「…………じゃあ、始めるから、切るぞ」
「うんっ」
何故か無駄に機嫌のいい紫永の声を聞きながら、俺は通話を切った。
……確か、このボタンを押したら、配信が始まる……始まってしまうんだよな。
「すぅーふぅー」
改めてそれを確認した俺は、深呼吸をして、配信開始ボタンに手を伸ばした。
そして、ボタンを押した。
「こ、これでほんとに始まってんのか? え、えっと、初めまして……はこの前しましたよね」
何を言ってるんだ俺は!? あの動画を見てない人だっているだろうし、初めましての人は居るだろ! この前しましたよね、じゃねぇよ!
俺は頭が真っ白にならないように、そんなことを頭の中で考えながら、これから何を言ったらいいのかを思い出していた。
あれだ。取り敢えず、これからダンジョン配信を始めていくってのを伝えないと。……いや、そもそも、ちゃんと配信、始まってるのか?
【始まってるぞ】
【始まってますよ】
【あの動画に初めましての自己紹介なんてあったか?】
【マジで配信初心者なんだな】
【期待してます!】
【いきなり始めるじゃん。通知で来ました】
なんかいっぱいコメント? が流れてる……思いっきり、始まってるじゃん。
そう思いながら、今何人が俺の配信を笑いに来たのかを確認するために、同接数を見てみたんだが……同接5000人!? 今始めたばっかりだぞ!?
「え、えっと、今日は、動画で言っていた通り、ダンジョン探索の配信をしていこうと思い、ます」
同接数に動揺しながらも、俺はなんとか、言うべきことを言った。
すると、また一気にコメントが流れてきた。
【どこのダンジョンですか?】
【甘味ちゃんを助けたダンジョンじゃないか?】
【武器とか装備は持ってきてないんですか?】
これ、一つずつ答えていったらいいのか? ……いや、全部の質問に答えてたら、どれだけ時間があっても足りないし、答えやすい質問にだけ答えよう。
「どこのダンジョンって質問、ですけど、ここのダンジョンの名前は知りません。ただ、その、甘味ちゃ……さんを助けた所のダンジョンで間違いはありません」
ついいつもの癖で甘味ちゃんって言おうとしてしまったけど、こんなに同接数もいるんだし、ちゃん付けで呼ぶのは不味いと思って、そう言った。
「後、装備とか武器は、普通に持ってない、ですね。まぁ、あんまり危険度の高いダンジョンに潜ることなんて無いですし、今のところ、装備や武器に必要性を感じないですし、これで大丈夫、です」
スキルもあるし、俺はこのダンジョンにしか来ないからな。このダンジョンの魔物なら、普通に素手でどうにでもなるし。
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