終わった

「ただいま〜」


 素材を売りに行ってたら紫永が帰ってくるまでに家に帰れるか怪しかったから、リュックサックに素材を入れたまま、俺は家に帰ってきた。

 一応、まだ帰ってきてないとは思うが、紫永がいる可能性も考慮して、そう言いながら。

 この前、俺が家出から帰ってきた時は居ないと思ってた時間帯に家にいたしな。


「紫永、居ないのか?」


 返事が返ってくることは無かった。

 ……今日は居ないっぽいな。

 そう思った俺は、背負っていたリュックサックを適当に置いて、紫永が帰ってくるのを待つために椅子に腰を下ろした。

 



「ただいまー、お兄ちゃん居る〜?」


 そうやって怖いからネットに触らないように適当に過ごしていると、紫永がそう言いながら家に帰ってきた。

 

「おかえり、紫永」

「うん。ただいま」


 それを確認した俺は、紫永に向かってそう言った。

 ……よし、紫永も帰ってきたことだし、甘味ちゃんの配信のこと、聞いてみるか。


「……あー、紫永?」


 そう思った俺は、緊張しながら、口を開いた。


「ん? どうしたの? お兄ちゃん」

「……その、この前、俺が映ってる動画を俺に見せてきただろ?」

「お兄ちゃん家出している内にバズってたやつ?」


 ……はい。それです。……それなんですけど、家出の事はもう言わないでくれ。

 ……紫永の口から俺がくだらないことで家出をしたことを聞く度に、本当に申し訳なくなってくる。


「それがどうしたの?」

「……いや、あれって甘味ちゃんの配信の切り抜き、だよな?」

「うん。そうだよ? そうだけど、それがどうしたの? さっきから全然話が見えてこないんだけど」


 俺が恐る恐る色々と聞いていると、紫永が不思議そうな様子でそう聞いてきた。

 ……覚悟を決めて、一気に聞くか。


「その配信ってどこまで映ってたんだ? ……その、俺、甘味ちゃんに口を滑らせて、家出してる、とか言っちゃったてさ……」

「……あー、お兄ちゃん。忘れてるかもしれないけどさ、私が見せたYのトレンド1位のところの文字、なんて書いてあったか思い出せる?」


 ……? トレンド1位の所に書いてあった文字? ……なんか、書いてあったっけ? 


「んーと、思い出せないみたいだから言うんだけど、その、あんまり気を落とさないでね? 私はお兄ちゃんのこと、大好きだから、ね?」


 俺が色々と考えていると、思い出せないことを察してくれたのか、紫永は俺の顔色を伺うようにそう言ってきた。

 紫永が、紫永が俺に気を使うようなことを言ってきてる。……これ、もうほぼ確実に俺にとって良くないことが書いてあったんじゃないのか!?


「お、落ち着いて聞いてね? あの時トレンド1位に書いてあったのは、斧を担いだ二つの意味で謎の家出男、だよ」

「…………家出?」


 その言葉を聞いた瞬間、一気に体から力が抜けていくのを感じた。……もちろん、安堵感からでは無く、絶望感からだ。


「う、うん。……さ、さっきも言ったけど、わ、私はそんなお兄ちゃんでも、大好きだから、全然大好きだよ!」


 俺の顔色が悪くなってきているのか、紫永は俺を気遣うようにそう言ってくれている。

 紫永が俺の事を気遣ってくれるのは嬉しい。……嬉しいんだけど、終わった。


「そ、それに、あ、あれだよ? この前投稿した動画はちゃんとバズってるから、大丈夫だよ!」


 動画? ……動画!? この前投稿した動画って、俺の黒歴史第二号じゃないのか!? 

 それを理解した瞬間、今度こそ俺は膝から崩れ落ちた。

 ……死にたい。

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