第14話 白無垢の理想系。
本野藍乃が家を出たので、高柳始は引越し業者を使い、山奈円の家に住むことになる。
「動くな始!」
「そうはいかないよ円」
高柳始は身体を壊した時の後遺症が自殺未遂で出てしまい、山奈円の介助が必要になっている。それなのに高尾一の使った不幸の影響で四苦八苦している。
それは山奈円が山奈相談所に入れ込めないように、高柳始の書く筋肉探偵五里裏凱の小説が、時代劇のような安心感で老人にウケてしまったというものだった。
その為に増刷、新作、書き下ろしと求められすぎてしまい、高柳始は不自由な身体に鞭を打って執筆活動に勤しんでいる。
そんな中の引越し、山奈円からすれば、諦めて相談所か山奈円の家で仕事をして欲しいのに、引っ越しを手伝おうとして足を引っ張っている。
当初山奈円は「高尾君、君だけに辛い思いはさせないよ。君と満ちゃんを見て、意思力の強さを知ったんだ。任せてくれ」なんて言っていたが、意思力も物理には敵わない。
相談所の仕事は高尾一が一人でヒーヒー言いながらやる事になる。
山奈円の不在で案件が減るかと思ったが、ブログの登場で余裕のない相談者達は、藁にもすがる思いで高尾一を頼る。
そんなある朝、高尾一は不幸が見えるようになっていた。
それは山奈円とは違う見え方で、山奈円は蜃気楼のようなモヤだったが、高尾一に見えたものは体の周りを覆う色で、白が1番マシで青に変わり青は赤に変わる。
高尾一は山奈円に倣い、相談料を受け取り、依頼に変わると不幸を見つけて解決をする。
過密労働で苦しむが、そこには山奈円と山田満がいる。昼は山奈円が相談所の5階住居で食事を用意してくれて、夜は山田満が勤め先の仕出し弁当屋から、残り物で弁当を作ってきてくれる。
「
今朝は水色だったので、高尾一が「満、何があったの?」と聞くと、隠し事はできないと、弁当の納品先に中学の同級生が居て、高尾一の不幸を望まれて遠回しな飲み会の話をされてしまっていた。
成程と言いながらお茶を用意した高尾一は、天に向かって「あーあ、満に何かあったら俺は仕事どころじゃなくなるな。そうなれば高柳さんも介助者がいなくなって野垂れ死にだ」と言うと、山田満の周りに漂う不幸は薄まり、青よりの水色になるので、高尾一は「満、もう大丈夫だよ」と言う。
「
「うん。満に何かあったら俺は仕事どころじゃなくなるし、山奈さんが生活費の為に相談所に戻れば、高柳さんは死んじゃうからね。高柳さんの不幸に向けて伝えたのさ」
高尾一の説明に、山田満は驚いた顔をするが、「白無垢が2人いるから出来る作戦だよ。俺は高柳さんを引き合いにして不幸を操作する。高柳さんは…不器用だからなんか失敗しそうだけど。やれるならやってくれればいいんだよ」と説明すると、弁当に入った鮭の塩焼きを食べて、「塩分が身体に染み渡る」と喜んで書類整理に戻って行く。
過密労働。働き過ぎの高尾一を気遣って、一緒に暮らす事にした山田満は最大限ケアをしているが、それでも忙しく、夜遅くまで働く高尾一の姿を心配そうに見ると、高尾一は穏やかな笑顔で「大丈夫。俺は高柳さんとは違うよ」と言うと、山田満の前に帳簿を置いて「チェック助けて」と言う。
山田満は、妻として山奈相談所に来る事も考えたが、それは高尾一に断られていた。
不幸の願いがブレて予測不可能になるし、操作が難しくなると言われ、出来たら一生仕出し弁当屋の看板娘をして欲しいと言われていた。
高尾一は拙いが不幸を上手く活用している。
これは山奈円が高柳始を連れて専外寺に行った時に、堀越重三和尚から言われていたことで、高尾一は柔軟な考え方で、白無垢として遺憾無く力を発揮していた。
そして山田満にキチンと助けを願える事で、高尾一自身も人より少し大変で済む。
勿論山田満に負担が行くが、それこそ夫婦の絆や愛で乗り切れる。
「彼は白無垢の理想系。彼なら白無垢は非業な人生を過ごすと言う言葉を払拭してくれるかもしれない」
堀越重三和尚はそう言っていた。
それは山奈円と高柳始も理解していた。
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