第13話 本野藍乃との別れ。
山奈円達が戻る最中に目を覚ました高柳始は、生きていた事に驚いて目を丸くしたが、藍乃から高尾一が力を使ったと聞いて、申し訳なさに俯くと、藍乃から「馬鹿な人。自分の尺度で世界を測りすぎなのよ」と言われる。
首に負担をかけたせいで掠れ声の高柳始が、「藍乃さん?」と聞き返すと、「彼も私もあなたの犠牲なんて不要なの。それを勝手に自己犠牲なんてみっともない」と言って、「離婚はします。こんなメンタルの弱い男だとは思わなかった。慰謝料も財産分与も過不足なくやりましょう」と言われる。
高柳始は「わかったよ」と言ってまた眠ると、次に起きた時には山奈円、高尾一、山田満が病室にいて、藍乃は荷物を取りに家に帰っていた。高柳始が「迷惑をかけたね」と謝ると、山奈円から本気で怒鳴られていた。
「始!お前という男は何を考えている!14年前、勝手に先走ってアレコレを決めた時に、私は泣いたんだ!今回も泣かせるなんて何を考えている!」
怒鳴る山奈円に「ごめんよ円」と高柳始が謝ると、「高尾君に感謝するんだな。お前の目論見は総崩れで、新しい不幸まで背負ってくれた。そしてお前も無事では済まないからな」と言われれば、高柳始は驚いた顔で高尾一を見て「え?高尾君?」と質問をする。
高尾一は前に出て、「高柳さん。俺は高柳さんの助けを借りずに、満と幸せになります。満は俺と結婚をしてくれます」と言う。
高柳始は自分が創作物を作る中で、不幸体質の人間が普通の結婚を意識した際の障害を思いながら、「でも…それじゃあ」と口を挟んだが、高尾一からは「余裕です。俺はずっと悩んでいましたけど、高柳さんを見て決めました。まあ高柳さんの失敗は、一度なら浄化以外の方法があるのを知らなかった事と、俺と満の仲を見誤った事です」と言われてしまった。
「君は何を願って、どうやって僕は無事なんだ?」
「俺の願いは、大変でも満と結婚をする事。対価は俺が山奈相談所の仕事で忙殺される事。大変です。給料が上がってホクホクになっても忙しくて使えません。山奈さんは、高柳さんのお世話とかで忙しいので俺がメインで働きます。しかもその為に不幸が見えるようになります」
高柳始は、自分には思いもよらない願いと対価に驚くが、高尾一は止まらない。
「しかも山奈さんも介助に合わせて結婚して、妊娠までするから俺のワンオペです。子供好きなのに先を越されます」
「え…それって…。僕が円と?先を越すって、忙しくて満ちゃんと結婚しても時間がないって…、そうなれば高尾君達の子供は…」
混乱する高柳始に、高尾一は「甘いです」と言うと、山田満を見て「満、俺の不幸に負けないように、俺との子供を願ってくれるよね?」と聞くと、ようやく意味を理解した山田満が「うん!任せて!」と言った。
高尾一は、山奈円と高柳始を見て、「2人とも不幸を過信し過ぎです」と言って笑った。
離婚をしても、その足で結婚とは行かないので、高柳始と山奈円はまだ独身同士。
結局高柳始は退院後に家を手放して、その金でローンを支払い、財産分与をして高柳藍乃は、旧姓の本野藍乃に戻り当初の予定通り旅に出た。
別れの朝、見送りはいらないと言っても、高尾一は「駅まで行かせてください」と言い本野藍乃にお礼を言う。
「お礼を言うのは私の方よ?」
「いえ、藍乃さんが、俺達の不幸を跳ね除ける人だから、俺はこの道を見つけられました。ありがとうございます」
「それを言うなら私こそよ。高柳と別れられたのは、あなたのおかげよ。きっとあの家が売れたのも、あなたのおかげよね?」
「ええ、まあ。俺の不幸は早く俺を不幸にしたいから、山奈さんと高柳さんを結婚させようとしますね」
「そうね。それで言えば、高柳の願いは山奈さんを幸せにしたくて、遠ざける為に私と結婚したのね?」
女の勘は鋭い。高尾一は返事に困ったが、本野藍乃は「そのくせ、感謝を述べたりやり直しを求めたり、やな男よね」と続けて笑う。
笑った後で、「でもね」と続けた本野藍乃は、「なんか山奈さんといる時の高柳はよく見えるのよね。あなたもよ。私、あなたの事なら愛せるかも」と色気を放ちながら言い、高尾一が慌てると、「ふふ。私は根っから人のものがいいみたい」と笑った。
そして「握手はいいわよね?」と言い、高尾一と握手をして別れた。
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