第12話 不幸を使う高尾一。
運良く駅で山田満と合流出来た高尾一は、憔悴し切っている山奈円の事を山田満に任せて、電車の中で何があったかを伝えた。
山田満は口元に手を当てて驚いて心配したが、高尾一が「俺の体質が高柳さんをそう簡単に死なせたりしない」と言ったところで、山奈円が「高尾君?君は何を?」と弱々しい声で聞いてきた。
「白無垢対白無垢の戦いに持ち込みます。この前、高柳さんが取捨選択で浄化をしてもらってる時に、先に終わった俺が休憩中の堀越和尚と話をしたんです。世間話でしたが、高柳さんの知らない抜け道があるんです」
高尾一の言葉に、山奈円は必死の形相で「それはなんだい!?それがあれば始は助かるのかい?」と掴みかかってくる。
平日とはいえ、電車の中には人もいる。周りの目が気になる中、高尾一は「落ち着いてください。望みはあります。後は専外寺で話しますし、堀越和尚と俺と山奈さんと満が、俺の話に承服してくれたらです」と言うと、その後は「口にしてもいい事はありません」としか言わずに、専外寺へと向かった。
運良くと言うか、本数の少ない電車にも関わらず、遅延が出たお陰で逆に早く着く。
山田満が不思議そうな顔をすると、高尾一は「俺の不幸も、早く俺を不幸にしたくて、専外寺へと行けと言ってるのかもね」と説明をした。
堀越重三和尚は深刻な顔と不幸を纏わない高尾一を見て、異常事態だとすぐにわかってくれて本堂へと通してくれた。
「堀越和尚、お願いがあります。やり直しの風を吹かせてください。そして俺に不幸を使わせてください」
高尾一はそう言ってから高柳始の状況を伝える。
堀越重三和尚は状況を聞き、「…成程。もう一人の白無垢は、君の白無垢としての力を奪い取る不幸の願いをして、その力で死すら得ようとしたのか…。そして君はやり直しの風を吹かせる。だが…それをしたら君は…」と言って口ごもるが、高尾一は「俺には覚悟があります。そしてその為に満に来てもらいました」と言って、山田満を見る。
普段の穏やかな顔とは違う男の顔。
「満、いつもありがとう。今の俺はさっきも言ったし今も言ったけど、高柳さんが不幸を使って俺の不幸を根こそぎ奪ってくれたんだ。そして高柳さんが書いた俺宛の遺書には、これで満と幸せになって欲しいとあった」
山田満には全てが信じられなかった。
あの不幸体質の高尾一が不幸から解放されていた。
だが、それを素直に喜べる状況ではない。
高柳始は今も生死の境を彷徨い、山奈円は絶望の声をあげて泣いている。
「でも、俺は高柳さんの願いを不履行にしてしまいたい。そして俺は白無垢として不幸を使いたい」
高尾一の言葉に、山田満はなんと言うか悩み黙っていると、「満、こんな時になんだけどさ…。俺と結婚をしてくれないかな?」と高尾一は言った。
突然の事に山田満は勿論、山奈円も目を丸くして高尾一を見た。
「高柳さんの遺書には、満と幸せになれってあったけど、今までの不幸体質の俺で頑張るから結婚してくれないかな?そして俺と苦労を共にして、2人で幸せになってくれないかな?」
「
「うん。俺は高柳さんのくれたチャンスは放棄する。でも満と幸せになる道は捨てない。俺は高柳さんみたいに、1人で藍乃さんや山奈さんを幸せにするなんて考えられない。満にも助けて貰って、2人で幸せになりたいんだ。だから俺と結婚をして欲しい」
山田満はこんな時なのに感涙して、「嬉しいよ
頷いた高尾一は、そのまま山奈円を見て「山奈さん、今日までありがとうございます。本当に感謝をしています。その恩を仇で返したいんです」と言う。
「何?何を言って…」と驚く山奈円に、「高柳さんと大変な運命でも生きてくれますか?」と聞いた。
「始と?大変な運命?」
「はい。俺の白無垢としての願いの結果です。高柳さんを死んで楽にはさせません。俺と共に新しい不幸になって貰います。でもそれは山奈さんの許しがいるから来てもらいました」
山奈円には躊躇も何もなかった。
涙を流しながら「始がいれば困難なんて困難じゃないよ」と言った。
山奈円の返答を聞いて、高尾一は頷くと「じゃあ堀越和尚、よろしくお願いします」と言い、堀越重三和尚は「君は凄い子だ。私が力を貸すから最良を目指すんだ」と言った。
堀越重三和尚は、専外寺に伝わる「やり直しの風」という儀式で、高柳始の不幸の願いを無効化する。
だがそれは一度きりのモノで、2度と同じ願いを無効化する事はできない。
そう。高尾一は2度と普通の人には戻れない事を意味していた。
そして…高尾一が「山奈さん、俺の不幸はどうなりました?」と聞くと、山奈円は申し訳なさそうに「…済まない。高尾君。見えているよ」と答えた。
「成功ですね。高柳さんは持ち直しますよ。帰りにまた浄化してもらわなきゃ」
高尾一はそう言うと、「堀越和尚、不幸を使います。補助をお願いします」と言い、堀越重三和尚は「任せてくれ。過不足なく不幸を使えるようにする」と言った。
「俺の不幸よ!俺は自分の不幸を使う。俺は満と結婚をする為に不幸を使う。俺の不幸は、山奈さんみたいに他人の不幸が見えてしまうようになったせいで、新婚なのに忙しくて新婚旅行にも行けない!山奈さんは高柳さんと結婚をして、体調が中々治らない高柳さんのお世話のために苦労をするせいで、俺ばかりが奔走する!俺は山奈さんの分まで働いた事で給料が上がってホクホクになるが、忙しくて使えないストレスでイライラする日々だ!子供が好きなのに忙しいせいで満と子作りもできない!それなのに山奈さんは、高柳さんの介護にプラスで妊娠までして産休に入って見せびらかして来るし、俺だけが忙しい!しかも山奈さんと高柳さんの子供は障がいも何もない健康な子で、手がかかって益々俺だけが忙しい!」
高尾一は天に向けて手を挙げて高らかに宣言をすると、山田満は「
堀越重三和尚だけは「ふふふ」と笑いながら、「過不足なく処理したよ。君の不幸の使い方は面白いね。でも、願いに対して不幸を使いすぎだから調整をしたよ。忙しくても、週に一度から二度は休めるくらいの忙しさだね」と言った。
高尾一が「休める?良かったです」と漏らすと、「まあ俺の考えの通りなら山奈さんが妊娠するまでの期間は執行猶予なので、その間に仕事を教えてくださいね」と山奈円に向かって言う。
そして「あーあ、きっと山奈さん達の結婚式の方が豪華で、俺はへこむんだろうなぁ。けど高柳さんが山奈さんの為に金を使ってくれて、山奈さんも困窮するんだろうなぁ」と漏らすと、「高尾君!?不幸を使うのはダメだ!」と山奈円が驚くが、高尾一は「使ってません」と言って笑った。
山田満は親に結婚の意思を伝えて、高尾一が浄化をしてもらう中、山奈円の元には高柳藍乃から着信があり、「主人が目を覚ましました。後遺症は残らないそうですが、暫くは人の介助が必要みたいです」と言われ、「そうですか。良かったです。始には高尾君が力を振るってくれたと言ってください」と話していた。
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