第5話 ブログのある日々。

高尾一は山奈円が新たにブログの存在を知った事で、もう東野蒼子を見捨てるかもと思ったがそれはなかった。


「西田藍子さん、一つ質問をさせてください。仮にこのお姉さんを題材にした創作活動をつづけた先、お姉さんが不幸に襲われて生活が破綻した時はどうしますか?」

「そんなの妹の私が面倒を見る。私が小説家で大成したら関係ないもの!」


「そうですか。面倒とは具体的に?」

「一緒に住んで、身の回りのことをソウちゃんにやって貰って、私は小説を書き続けるの」


高尾一は聞いていて高柳始の事を思い出したが、高柳始も妻の藍乃もとても幸せそうには見えないなと思ってしまう。


その時、山奈円は「では西田藍子さんも破綻されますね」と言った。

その顔は少し笑っている風にも見える怒り顔だった。


「は?」と聞き返す西田藍子に、山奈円は「不幸を甘く見ています。東野蒼子さんが今のまま夫の紅一さんを別の女性に奪われて、慰謝料を貰い西田藍子さんと合流して、西田藍子さんの稼ぎで暮らす?無理です。東野蒼子さんが幸せになれないように不幸を願われて居るんです。同居人くらい簡単に不幸にできます。仮に別居して経済援助を行えば、援助が出来ないように不幸に見舞われます。この場合でしたら小説家の道が閉ざされる事ですね」と言った。


そのまま「どちらにしろ詰みです。血も涙もない人間でしたら、東野蒼子さんを犠牲に大成なさって、縁を切って遠い地で死ぬことすら許されない不幸に苛まれる姉を、使い続ければいいでしょう。それが無理ならそのブログを辞めることです」と続けた。


力なく項垂れた西田藍子だったが、往生際が悪く、見かねた高尾一が折衷案として「フィクションを強調して、真逆のお姉さんを題材に書いていると前書きしたらどうですか?」と言った。


「では一週間だけ試しましょう。それでダメな時は辞めていただきますよ?」

「…わかりました」


西田藍子は「大切なお知らせ」として、デーモンワイフはフィクションだと言うこと、自身は未婚で既婚の姉を題材に書いたこと、姉は真逆の良妻賢母で似ても似つかないこと、それらを前書きに書いてから創作活動を続けたが、批判コメントは止まなかった。

それどころか西田藍子にまで批判が向いてきて、西田藍子は不幸を恐れ始めていたし、現に職場でも小さなミスを指摘されるようになっていた。


一週間後、東野夫妻の見ている前でブログを停止する西田藍子。

「一応一週間でブログについて学びました。引越し機能などは使わずに、この世界から消してくださいね」

「消しました…。もう批判コメントが怖いです」


「そうですね。やめた方がいい」と言った山奈円は、東野蒼子を見て「まだ暫くはブログを消しても余韻のようなものが残ってしまい、完全に解決とはいきませんが、ここまで酷い事にはならないと思います。それに関しては新たなブログが世に出てきて、世間から東野蒼子さんの思い出が消える事を願いましょう」と言うと、東野蒼子は泣いてお礼を言う。


これで終わりだと思ったが甘かった。

西田藍子は新しいブログを始めて、デーモンワイフ以上の作品を作ればいいんだと言い始めていて、山奈円は「山奈相談所の客にはならないでくださいね」と言って東野家を後にした。

手には分厚い茶封筒。

山奈円は「ボーナスは期待してくれよ」と笑うと日常に帰って行った。


山奈円は相談客に「私生活を教えてください」という質問の中に、新たに「ブログ等の外に向けて何かを発信する行為はされていますか?」と足すようになった。


ブログが原因のトラブルはchowderの時同様に徐々に増えていて、これは間違いなく不幸の願いの新たな主流になると山奈円は思っていた。


そんな中、高尾一が申し訳なさそうに近付いてくる。その顔はとても嫌そうで「なに?君の友達がブログで不幸になったのかい?もう消すように言っておいてくれ」と先に山奈円が言うと、高尾一は「違いますよ。これ」と言って高尾一は携帯電話の画面を見せてくる。


「西田藍子さんのデーモンワイフが復活してないか見てたんですよ。そうしたらランキングの新着欄に…」

高尾一の指の先を見て山奈円は「バカな…」と呟く。


そこには西田藍子だろう。「ハッピーガーディアン高尾山」と書かれたブログの名前があった。


簡単に中を説明すると、中には不幸に見舞われた人間を救う山奈円を彷彿させる女霊媒師「高尾山」がいた。


「山奈さん、どうするんですか?」

「…まあ明日には無くなってるよ」


高尾一は言葉の意味を理解していなかったが、高柳始が自らを犠牲に願ってくれた山奈円の心を曇らせる存在の排除が心を乱す西田藍子を見逃すわけもない。


西田藍子は翌日には運営から利用規約に違反したとしてブログを消されていた。

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