第4話 ウェブログ。
西田藍子の素性を聞いたらすぐに不幸が見つかった。
西田藍子は創作活動に勤しみながら勤め人もしていて、それもあって姉が結婚をしても、本人はどこ吹く風で実家を出て一人暮らしをしながら創作活動を続けていた。
西田藍子の創作活動は、元々小説家のような物書を目指していたが、公募や賞には無縁だった。だがここに来てある程度の日の目を見ていた。
「ブログ?それって何ですか?」
高尾一が聞くと、西田藍子は呆れるように「若いのに知らないの?ウェブログの略称。昔ってホームページを持つのは一部のパソコンが使える人たちだけで、ソフトとか言語とかわからないとダメだったの。でもブログなら知識が少なくてもできるの。私はそこで創作活動をしているの」と言う。
困った高尾一は山奈円に救いを求めると、山奈円は「ホームページか。chowderとはまた違う形式…」と呟いてから、「そこではどのような活動を?」と聞くと、自慢げに携帯電話を取り出して「ブログは携帯からも見られて便利なの」と言いながら見せてきたページには[デーモンワイフ・イーストブルー]の文字があった。
直訳すれば鬼嫁東青。
安直だが鬼嫁東野蒼子と言った所だろう。
小説はかかあ天下の東家で、夫は毎日面白おかしく虐げられていて、それをポップな文体で面白おかしく書き連ねている。
最新作は、飲んで帰って玄関で酔い潰れる夫に水をかけて叩き起こして、玄関掃除と風呂掃除までさせる話だった。
西田藍子に言わせれば、これは東野蒼子と西田藍子、2人の母が夫である父に抱いていた不満を元にしているので「あるある」な事と、世の妻たちの不満の体現者としてウケていると言う事だった。
ウケている。
それもまた良くなかった。
山奈円が聞くと、西田藍子はランキングサイトに登録していて上位に君臨していた。
上位だから人の目につく。
目につけばまた上位に君臨する。
西田藍子はホクホクだったが、それだけでは済まなかった。
全員が各々の携帯でデーモンワイフのブログを読んでいると、我慢できなかった東野蒼子が西田藍子に文句を言う。だが西田藍子は不思議そうに「なんで?ソウちゃんのことは何も書いてないよ?ソウちゃんは紅一さん思いだし、良妻賢母だよ?創作物だよ」と言った。
「それでもこんな、嫌だよアイちゃん!この家の間取りとか地名はぼかしてあっても、駅からの徒歩とかお蕎麦屋さんとかスーパーとか、全部ウチのご近所だよ」
「そこはインスピレーションと言いますか、結婚したことないからソウちゃんの所からイマジネーションを貰ったと言いますか」
ここで山奈円が「そう。それが東野蒼子さんに不幸を招く原因になりました」と圧を放って言った。
山奈円の圧に負けた西田藍子に、山奈円は携帯電話の画面を見せる。
画面には批判の嵐とスッキリしたという意見、後はウチもやってみると言う感想で溢れていた。
山奈円は東野蒼子を見て「東野蒼子さん。原因はコレです。確定です」と言った。
「山奈さん…。本当ですか?」
「ええ、この想像で東野蒼子と想像できてしまう状況で、不幸の願いが東野蒼子さんに向かった。批判をしている者は、そんなに夫を大事にできないなら離婚をしろと願うし書きます。現に書き込まれています。夫婦仲を割く為に子宝を望まない声や、夫の心変わりを期待した横恋慕を望む声も書き込まれています。そして妻がこのブログを真似して旦那さんに高圧的な態度を取った家の旦那さん達も、このブログを知れば怒りは作者の西田藍子さんではなく登場人物の東青子、そう東野蒼子さんに向く。ここまで見れば一目瞭然、ここ最近の不幸は当然の結果です」
東野蒼子はここ数ヶ月の不幸を思い出して青くなると、「今すぐ辞めて」と西田藍子に迫る。
温厚な姉の豹変に、西田藍子は驚くも「嫌よ!今はブログ本とかも流行っているし、ランキング上位なら出版社から声もかかる可能性があるの!そうしたら小説家デビューだって夢じゃなくなるし、今の生活だって一変するもの!」と言って引かない。
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