第2話 高尾一の不幸力。
夕暮れ時になり調査を諦めて帰る。
時刻が関係しているのかと、街を何往復してみても東野蒼子にまとわりつく不幸の原因は見つからない。
山奈円は口惜しそうに「今日は終わりにしよう。ありがとう高尾君。満ちゃん」と言って駅に向かう。
山奈円には益々余裕が無くなっていて、「原因は何だ」と口にしていて、話しかける事が憚れてしまった。
山奈円が先に電車を降りると、高尾一と山田満は山奈円の身を案じながら、残り7駅の旅路になる。
高尾一は電車移動でも持ち前の不幸の受け皿を発揮する。
不幸の受け皿は周りの不幸を願う声を拾って具現化してしまう。長年の経験で高尾一のハジメ時間があって、約束の1時間前を目指さないと電車は止まる。しかも1時間前だと不幸は起きずに高尾一の骨折り損になる。
「ごめん満」
「大丈夫。お父さん達はわかってるもん」
高尾一のごめんは約束の1時間前を切っているので高確率で遅れてしまう。
この話を山奈円にした時は、「やれやれ。始もそうだが難儀だよね。しかも本当の難儀は駅員さんさ、彼等は始末所まで書いたりトラブル対応を求められるのだからね」と言われて確かにと思った。
「まあコツは約束の時間を作らない事。後は間に合わせたければその1時間前を意識することさ」
案の定電車は遺失物捜索と急病人の為に遅れる。
山田満はニコニコと「一、お父さん達は見越してたって」と携帯電話を見ながら言い。高尾一はホッとしていた。
冬の寒い日に地上駅で運転間隔の調整をされると、ドアが全開で外からの寒い空気と車内の汗ばむ暑さが混ざってなんとも言えなくなる中、運転間隔の調整と知らない乗客が駆け込み乗車をしてきた。
その乗客を見た高尾一は目を丸くした。
それは東野蒼子だった。
化粧と服装のせいだろうか、とても溌剌に見える東野蒼子は息を切らせて電車に乗り込むとコートを脱いで温度調整をしている。
その時、東野蒼子の髪型は胸までのロングヘアではなく、肩で切り揃えられていた。
数時間で美容室に行ったのだろうか?
高尾一が違和感を口にすると、山田満も「なんか変だよ。山奈さんに言おうよ」と言う。
30分遅れで着いた高尾一は駅で山奈円に電話をかける。
5コールで電話に出た山奈円が「はい?山奈です」と言うなり、高尾一は「高尾です!山奈さん!明日も休日出勤します!」と言う。
山奈円は「君、何かトラブルで入り用かい?キチンと言ってくれれば、ボーナスに乗せるから、無理に働くなんてやめなさい」と呆れ声で言い返す。
「違います!東野さんを見かけましたが変なんですよ!明日東野さんに会いたいんです!月曜日は相談づくめで外に出られませんよね?」
「東野蒼子さんに会ったのかい?」
「見かけました!」
「…成程、君の不幸の受け皿と具現化が仕事をしたんだね?誰かが師走の忙しさで「誰か休日出勤すればいいのに」と願い、君がそれを拾い上げた。君が見たのなら解決に繋がるはずだ。僥倖だよ。では明日、時間をくれるね?」
上向いた山奈円の声に、高尾一は自分の事のように喜んでしまった。
山田満の両親は高尾一の事を大切にしている。
喜びながら明日も仕事になった事を報告する高尾一を心配しながらも、「人の幸せのために一君しか出来ない仕事をする。素晴らしいよ。でも無理はしないでくれよな」と言葉を送る。
「ありがとうございます」と高尾一が言うと、山田満が「私と山奈さんが見張ってるから平気だよ」と言った。
そう、高尾一は高柳始の失敗があったので心配されていてされていて、健康面はここ数年で1番しっかりしている。
冬場はインフルエンザの心配もあったが、それは山奈円が不幸を操作する事で「病気になって休むなんて言語道断」と思う事で、インフルエンザを回避させていた。
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