不幸との付き合い方。

さんまぐ

新たなる不幸。

相談者・東野蒼子。

第1話 未知の不幸。

高尾一が山奈相談所に来て、2年目の冬に不思議な相談客が来た。

山奈円は五万円を請求したい程の熱心な女性だったが、困った事に話の中に何の問題も見えない。

一万円で追い返す事も間違っていた。


だが、山奈円の目には確実に不幸はまとわりついているのが見えるし、今不幸は最悪の形になりかけている。


夫は妻を愛しているが、妻の親友が略奪婚を狙うように、何かというと女の家に来て夫に色目を使う。

親友の露骨な変化に眉をひそめたが、それがあったからと言うべきか、追い打ちをかけるように念願の子供を流産した。


最初の相談を受けた時に、山奈円は1番に親友を疑い、連絡を断たせたが違っていた。


このままでは、この相談者は死ねば幸せ。生きているだけで不幸に見舞われる存在になる。

そして新しい可能性の存在。


最終目標の高柳始を不幸から助ける為にも、山奈円は意を決して「東野蒼子さん。1ヶ月程携帯電話を手放してもらいましたが、それでもあなたの不幸は晴れなかった」と言うと、真っ青な顔の東野蒼子は震えて泣いてしまう。

長い髪の毛が涙で頬に張り付くのは見ていて痛々しい。


「そんな…、山奈さんの所でダメだともう」

「はい。東野蒼子さんのケースは初めてです。なので今日以降の相談料は不要です。ご依頼として成功時のみいただく形で、最後まで共に戦わせてください」


山奈円の言葉に、東野蒼子が驚いた表情で「え?」と聞き返すと、真剣な表情の山奈円は「お友達の宮城様がchowderで困られて私の元にいらっしゃいましたが、chowderも初期の時は私には未開の地、未知の存在でした。私は最初のchowderの相談者の時も、途中で相談料を頂かずに成功報酬のみでやらせて頂きました」と言い、高尾一が山奈相談所を訪れる前の事を思い出していた。


東野蒼子は山奈円の言葉だけで泣いてしまうと、「よろしくお願いします」と言って帰って行った。


とは言え五里霧中の暗中模索。

山奈円はソファに身を投げ出して、「chowderの時の苦労再びだ。だがこれがレアケースで無ければ、これからもこの不幸は止まらない。何とかしなければ」と言う。


お茶を片付けながら高尾一はじめは「山奈さん、前のchowderの時って、どうやってchowderに行き着いたんですか?」と質問をする。


山奈円は「私生活を事細かに聞いたのさ、その中で最近の趣味にchowderがある事を突きとめて、招待制だからその人に紹介してもらってchowderを見てすぐにわかったのさ」と言った。


「今回は…」

「私生活はシロ、趣味も編み物。夫との仲も良好。親友を疑ってみたが携帯電話を取り替えても不幸は消えない」


高尾一に説明をしながら再認識をした山奈円は「難物だ」と漏らす。


今日の相談はこれで終わり。

だが時間が足りない。

山奈円が「明日の土曜日は休日出勤してくれるかい?」と聞くと、「満ちゃんと共に過ごす日かい?」と続けた。


高尾一が「休日出勤ですか?出来ますよ?満?夜は満の両親に食事に呼ばれているので行きますけど、別に向こうの駅集合だから、終わってから行けば間に合いますよ」と返した後で「山奈さん?」と聞き返すと、山奈円は「東野蒼子さんには時間が残されていない。一度ウチまでお邪魔させていただいて、近所を散策して不幸の願いを探したいんだ」と言った。


高尾一は真剣な山奈円を心配しながら、「わかりました」と言って、山田満には「明日は休日出勤。終わったら直接向かうよ」と入れると、「私も行こうか?私がいれば何か違うかもよ?」と言われて、山奈円に確認を取ると「心強いよ。満ちゃんにもよろしく頼むよ」と返信がきた。



翌日、下り線5駅の所にある東野蒼子の家まで行く。

家には上がらずに軒先で挨拶だけを済ますと、不思議な事に家に不幸は見えなかった。


東野蒼子が泣いて感謝を伝えると、主人の紅一が出てきて頭を下げてきた。

主人の不幸も疑ったがそれもなかった。


東野蒼子が住むのはごく普通の街で、商店街も山奈の所には劣るが、不幸が渦巻くような事もなく活気はある。生活圏と行動パターンを見て歩くが、1日かけても不発に終わり、山奈円は普段の余裕がなく焦っていた。

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