第051話 首狩り、人手を雇う
「こんにちは。私はイチーグォのかき氷をお願いします」
「今日も暑いですね。マスター、ミェロンのかき氷を一つお願いします」
「アイスコーヒー」
翌日、いつも通りに店を開け、いつもと同じように常連たちがそれぞれのタイミングで店にやってくる。
注文を出し終えた後、アックはティナと同じテーブルに座り、店内に設置するぬいぐるみを巧みな糸捌きで縫い上げ、ティナは最近文字を覚えてきたので簡単な子供用の本を読んで過ごす。
「キュキュッ」
「クルルッ」
「クゥ」
時折常連たちとモンスターたちの鳴き声が店内に木霊し、穏やかな時間が流れる。
「アック」
しばらくすると、本を読んでいたティナがふと顔を上げる。
「どうした?」
「学校行ってみたい」
「学校か……」
アックが詳しく話を聞くと、マリアの家に行く途中にティナの同年代の少年少女が集まっている場所があって気になり、マリアに何をする場所か尋ねたようだ。
説明を聞いたティナは、同年代の子供が集まって勉強をする学校に興味を持ったという。
確かにアックでもある程度の知識と教養は教えられるが、それには限界があるし、ティナには同年代の友達がいない。
アックも傭兵団に居たため、同世代の友人がほとんどいない。友人の多くは戦場で散ってしまった。それゆえ、抜けていたことにアックは気づかなかった。
自分には友人はいなくとも傭兵団の皆がいたので、寂しさを感じたことはないが、ティナにはアックとスノーたちしかいない。それはあまりに可哀そうだ。ティナにこれ以上寂しい思いはさせたくない。
アックがグレートブリザード山に数日離れただけで随分と不安にさせてしまった。友達ができれば、そういう気持ちも薄れるかもしれない。
そう考えると、学校に通わせるというのは非常にいい案に思える。
ただ、懸念もある。
治安が良い街とは言え、以前のようにティナを狙う輩がいたり、学校でいじめにあったりする可能性だ。
スノーが居れば大体は撃退できるが、街中では相手に何かさせる前に牽制することも大事だろう。
そう考えると、学校内ではスノーを付けるのは当然として、自分で送り迎えくらいはした方がいいだろう。
ティナを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
アックはティナのことになると非常に過保護だった。
ただ、その間店を空けることになる。リムが居れば防犯面は問題ないが、常連しかいないとはいえ、店に誰もいなくなって追加注文の対応ができないのは問題ありだ。
「ダメ?」
「通うのは問題ないんだが……」
――チリンチリンッ
どう伝えるべきか悩んでいる所に、今日はこれ以上ならないはずの入り口のベルが鳴った。
「こ、こんにちは!!」
「お、お邪魔しまーす」
「良い雰囲気」
「ホントにカフェだね」
数人の人間がおそるおそるといった様子で店内に入ってくる。やってきたのはアックが昨日助けた年若い冒険者であるカインたちだ。
恩を感じた彼らは早速アックがやっているという店を探してやってきたのだ。
カインたちが街で聞いたら、もふもふカフェは有名ですぐに場所は分かった。
「いらっしゃい」
「アックさん、昨日はありがとうございました」
『ありがとうございました』
カインが代表して頭を下げ、その後に他のメンバーが続く。
「気にするな。好きな席に座れ」
「あ、はい」
アックに促され、4人は空いているテーブルに腰を下ろした。
「どうぞ」
ティナがよいしょよいしょとメニューと水を運ぶ。
「あ、ありがとう」
「ん」
可愛らしいティナから水とメニューを受け取った4人はメニューを開いて驚いた。
『やっす!!』
なぜなら驚くほどに安かったからだ。街の中ではこの料金の倍以上とられてもおかしくはない。初心者冒険者でも躊躇なく注文できる金額だった。
アックとしては赤字にさえならなければいいので、誰でも来やすいように値段を抑えている。
おのおの好きなものを頼み、料理と飲み物に舌鼓を打つ。
『うんまぁ~』
安さとは裏腹に出された物はどれも美味い。
彼らの頬はだらしなく緩んでしまった。
腹を落ちつけた彼らは、もふもふたちには目もくれず、縫物をしているアックの許にやってきて声を掛ける。
「あ、あの、アックさん」
「なんだ?」
『俺たちを弟子にしてください!!』
それは思いがけない申し出だった。
アックは恐れられることはあれど、教えを請われたことなど一度もない。それが13歳程度の子供となればなおさらだ。
そこでふと思う。
これはちょうどいいのではないか、と。
そこでアックは1つ条件を出すことにした。
「少し店を手伝ってくれるのなら、空いている時間に戦い方に関しては教えてやろう」
「え、いいんですか?」
カインたちは教えてもらえると思っておらず、間抜けな顔をする。
アックとしてはティナを送迎している間、彼らが店に居てくれれば凄く助かる。それに彼らが自分を恐れず頭を下げてきた気持ちに応えたかった。
断る理由はない。
「俺は冒険者としての経歴は浅い。元傭兵としての訓練や戦い方でいいのならな」
「はい。ぜひお願いします!!」
こうしてアックはカインたちを雇うことになった。
受け入れられたカインたちは年相応にはしゃぐ。
「ティナ、学校に行こうな」
「やった」
その様子を微笑ましく見つめた後、アックがティナの頭を撫でると、彼女は目を細めて嬉しそうに笑った。
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