第050話 首狩り、新人冒険者'sを連れて帰る

 アックを見て化け物と勘違いした年若い少年少女たちは、武器を構えながら怯えてビクビクと身体を震わせる。


 攻撃まではしてきそうにはなかったので、アックとリムは何もせずに彼らが落ち着くまで待った。


 暫くしてアックたちが自分たちを襲う気配がないことに気づき、徐々に落ち着きを取り戻してきた冒険者たち。


 アックたちが助けてくれたことを理解し、お互いの顔を見合わせた後、深々と頭を下げる。


『申し訳ありませんでした!!』

「いや、気にしなくていい」

「ふん、助けてやったというのにこの高貴なるフェンリルの我を化け物扱いとはな。近頃の人間というやつは」


 アックは慣れたものなので特に思うところは何もなかったが、リムは不満そうに顔を背けた。


「なんでこんなところにいたんだ?」

「依頼を受けてきたんすよ」

「この辺りはお前たちには危険だと思うが……」

「はい、そのことは今回身に染みたっす……」


 アックはすぐに彼らの力量を見抜いて不思議に思っていたが、彼らが背伸びをしてここに訪れていたことを知る。


 それなら死にかけていたのも納得できる話だ。


 アックに指摘されて全員が肩を落として落ち込んでしまった。


 先達の1人として説教でもするのが普通かもしれないが、今回死にかけたことで冒険者として生きていく上で焦りは禁物だということを実感しているようだし、アックは傭兵の生き方は知っているが、冒険者としては新人のようなもの。


 これ以上何かを言うつもりはなかった。


「そうか。俺はアック。こっちはリムだ」

「あっ、はい。よろしくっす。俺はカインって言います。こっちからヘイル、コーティ、イアリっす」


 先ほどから代表して話しているのはぼさぼさ頭のやんちゃそうな少年であるカイン。


 アックが自己紹介をすると、カインに紹介され、ヘイル、コーティ、イアリの三人が軽く頭を下げて挨拶をした。


「ふんっ」


 リムは化け物扱いされたのが気に入らず、よろしくするつもりはないらしい。


「依頼はこいつらの討伐か?」

「はい。そうっす」

「リム。少し溶かしてくれ」

「はぁ……仕方ないな」


 アックに頼まれたリムは、渋々ながらフォレストウルフの討伐部位である牙を取らるように口元付近の氷を溶かした。


「持っていけ」

「い、いいんすか?」

「ああ」

「ありがとうございます!!」


 アックの言葉を聞いたカインたちが目を丸くする。


 カインたちとしては命が助かっただけ儲けもの。今回の依頼で得られた最も大切な報酬は自分たちが調子に乗っていたことを知れたことだ。


 だから、依頼は失敗になって当然だと思っていた。


 アックの思いがけない言葉を咀嚼するのに少し時間が掛かったが、理解が追いついた時、嬉しそうな笑みを浮かべて皆で牙を取る作業を始める。


 その間アックは彼らを微笑ましい様子で見ながら周りの警戒を続けた。


「終わりました!!」

「街まで送っていこう」

「い、いや、俺たちだけで大丈夫っすよ」


 リムの散歩も良い頃合いだったのでもののついでだ。


 彼らの遠慮を無視して強引に護衛しながら街まで戻る。帰りは何事もなく門の前まで帰って来れた。


 それはアックとリムがいるお陰なのだが、彼らが知る由はない。


「今日は本当にありがとうございました。本当に助かりました」

『ありがとうございました』

「たまたま見つけただけだから気にするな。これからは命を大事にしろ」

『はい!!』


 アックは彼らに背を向けたが、ふと思い出したことがあって振り返った。


「そうだ。俺は街の郊外でカフェをやっている」


 それは自分の店の宣伝だ。


「カ、カフェっすか?」


 どう見ても同業者か傭兵だと思っていたのに、思いがけない名詞を聞いたカインたちは唖然とする。


「ああ。もふもふカフェという。気が向いたら寄ってくれ」

「そ、そうなんすね……わかりました。通わせていただくっす!! なっ?」

「は、はい、勿論です」

「い、行きます」

「わ、私も!!」


 アックの言葉が未だに飲み込めないながらも、命の恩人がやっている店であれば、必ず訪れようと思うカイン一行であった。


「ティナも心配している頃だ。早く帰ろう」

「うむ。早くナポリタンを作ってくれ」

「今日はナポリタンじゃないぞ?」


 すっかりアックが作るナポリタンが気に入ったリムだが、残念ながら毎日ナポリタンと言うわけにはいかない。


 最優先はティナだ。


 ティナの健康のためにも栄養バランスの取れた食事と、飽きが来ないように色んなバリエーションの料理を作らなければならない。


「なんだと!? そ、それじゃあ今日はなんなのだ!?」

「ハンバーグだ」

「ふむ。初めて聞くが、それはそれでなんだか美味そうな響きだ。仕方あるまい。今日はそれで我慢しよう。明日はナポリタンだからな!!」


 リムを適当にあしらいながらアックはカフェに帰るのだった。


「これから毎日ハンバーグだからな!!」


 家に帰って肉で作られているハンバーグを食べたリムは、狼系モンスターらしくナポリタン以上に気に入ることになったのは余談である。

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