第049話 新人冒険者's、化け物に遭遇する

 ファームレストの冒険者ギルド。


 ここでは毎日新しい冒険者が生まれ、そして消えていく。


「手続きが完了しました。こちらがギルドカードになります」

「ありがとうございます」


 その日もまた1人、新しい冒険者が誕生した。


 しかしその冒険者はあまりにも幼く、まだ年端も行かない少年だった。


 それもそのはず。


 彼は冒険者登録が可能な最低年齢である13歳なのだから。


 少年はカードを受け取り、振り返って受付を後にする。


「これで俺たちも冒険者だ」

「ああ、そうだね」

「楽しみ」

「やっと冒険できるね!!」


 その少年の許に別の少年と少女たちが近づいてきた。


 彼らも少年と同じ年で、冒険者登録を済ませたばかりの新人冒険者だ。


 しかし、1人で活動するにはリスクが高い。だから、仲のいい幼馴染4人でパーティを組んで活動するつもりだった。


 1人目は茶髪にぼさぼさ頭のやんちゃそうな少年で名前をカインという。長剣を背中に刺し、いかにも初心者らしい革の装備を身に着けている。


 2人目は金髪で線の細い少年ヘイル。彼はローブに身を包み、杖を持っていて、いかにも魔法使いという出で立ちだ。


 3人目はワインレッドの髪の毛をポニーテールに結び、気の強そうな大きな瞳を持っている少女コーティ。槍を持っていて、初心者用の胸当てなどの各種プロテクターを身に着けている。


 最後の少女は、ブラウンのショートヘアーで、猫のような焦げ茶色の瞳の小柄な女の子イアリ。へそを出し、ショートパンツのような物を履いていて、露出の多い恰好をしているが、それだけ身軽さを重視しているともいえる。


 それぞれ、前衛、後衛、中衛、斥候や遊撃という役割を持っていて、この日のために修業や訓練を重ねてきた。


「皆もそろったことだし、依頼を受けようよ」

「いいねぇ」


 イアリが依頼表の掲示板を指さして、早速仲間たちを誘う。


 そして、彼らが目を付けたのは東の草原での薬草採集依頼。


 この辺りで東の草原は初心者冒険者たちが最初に足を運ぶ場所。モンスターも少なく、この辺りで一番安全な狩場だ。彼らは特に迷うことなく初依頼を決めた。


「あ、ここにあったよ」

「こっちにもあるね」


 ヘイルとイアリが採集している間、カインとコーティが周りの警戒をしていた。


 ――ボコッ


 草原の地面が盛り上がって穴があき、そこからツンと尖った鼻先が顔を出す。


 それは毛がなく、ピンク色のツルツルとした体表をしていて、生まれてたの豚の赤ん坊のように見えた。


「モグッ」

「ハゲモグラ!!」


 その正体はこの草原に棲むモンスターの一種で毛のないモグラ型のモンスターだ。


 強いモンスターではないが、度々襲われて大怪我をする人間がいる。


 カインとコーティは武器を構えて臨戦態勢に移った。


「モグゥッ!!」

「やぁっ!!」


 ハゲモグラが土を石礫のように飛ばしてくるが、コーティが土の礫を槍を振って叩き落とした。


「ふんっ」

「モグゥ……」


 その間にカインがハゲモグラに迫り、剣を突き刺してトドメをさす。


 初心者向けだけあって、ハゲモグラは動きもそれほど早くないので、倒すのは比較的簡単だった。


 それから幾度か襲ってくるハゲモグラを交互に倒しながら、薬草を集め、簡単に初依頼を達成することができた。


 その後も何度か初心者用の依頼を受けたが、それなりに準備してきた彼らは、簡単にこなせた。


 そうなると欲が出る。もっと難しくてもっと報酬が良い依頼がしたい。


 彼らが受ける依頼の難易度を上げるのにそう時間はかからなかった。


「へへへっ。ハゲモグラは物足りなかったんだ。楽しみだな」

「そうね。私もこの槍を存分に振いたいわ」

「本当に大丈夫かなぁ」

「私が先に偵察するから問題ないって」


 そして、受けたのは森にある薬草の採集。


 3人が楽観的に考える中、魔法使いのヘイルだけがビクビクしていた。


 森の中は草原とは違って視界が通らず、どこに危険が潜んでいるか分からない。草原よりもモンスターの種類が増え、強さも段違いだ。


 物理的な戦闘力が1番低い彼が不意をつかれればひとたまりもない。


 ヘイルが不安がるのも当然だった。


 イアリが少し先に進み、斥候役をしながら森の中を探索していく。


「はぁっ!!」

「せいやっ!!」

「ウィンドカッター!!」


 初めは発見したモンスターを倒しながら、問題なく採集依頼を勧めることができてきた。


「ウォンッ!!」

「うわぁっ!?」

「やぁっ!!」


 しかし、徐々に前方以外から襲ってくる狼型モンスターであるフォレストウルフが増えてきて、ヘイルが危うく怪我をしそうな場面が起こるようになってくる。


「ごめん、囲まれてる……」


 そして、森の中で生きてきたフォレストウルフは気配を消す力も長けていて、その力は斥候として訓練や修業をしてきたイアリよりも上だった。


 イアリが気づいた時にはすっかり自分たちの周りを包囲された後だった。


「ウォンッ!!」

「ウォオオンッ!!」

「ガフッ!!」

「グルルルルルッ!!」


 獲物を完全に包囲した後、勝利を確信したフォレストウルフたちが姿を現して、カインたちを威嚇する。


 それはカインたちをビビらせるには十分だった。


 自分たちの冒険は始まったばかりなのに、こんなところで狼に食べられて終わってしまうのか……。


 カインたちは絶望せざるを得なかった。


『は?』


 しかしそんな最中、突然自分たちの周りにいたフォレストウルフが森ごと凍り付き、呆然となる。


 余りに信じられない光景だったからだ。


「大丈夫か?」


 そして、後ろから声を掛けられて我に返り、4人の体がビクリと跳ねる。


 おそるおそる振り向くと、そこに立っていたのは、今にも人を殴り殺しそうな強面の男と、それにも負けず劣らず、フォレストウルフよりも大きくて獰猛そうな顔の狼だった。


『ひぇええええええっ、化け物ぉおおおおっ!!』


 彼らが叫んだの必然だった。

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