第047話 首狩り、再び宣伝をする

 次の休業日。


 クラーフから連絡があり、アックはかき氷機と盛り付ける器を受け取った。


 透明なガラスのような素材で作られた器は、美しい格子状の模様が正確に描かれていて素晴らしい出来だ。


「きれい」

「これに削った氷を盛れば映えるだろう」

「キュウッ!!」


 ティナたちもその質に感心していた。


 しかもこの器の素材は硝子よりも耐久力という点で非常に優れている。


 落としても割れず、傷もつきにくいので、最初こそコストが掛かるが、長い目で見ればこちらの方が費用が少なく済む。


 それにティナや客が割ってしまい、怪我をする心配もない点も素晴らしい。


 次はかき氷機だ。


「可愛い」

「想像通りだ」


 出来上がったかき氷機はアックがデザインした通り、デフォルメされたモンスターをベースにした造りになっていて、見た目にも楽しめるようになっている。


 ティナは愛でるように目を細め、スノーたちは自分たちに似ているかき氷機に親近感を持ったようだ。


 何はともあれ、きちんと動くかどうか確認してみなければならない。


「リム、氷を」

「ふん、仕方あるまい」


 しっぽを機嫌よく揺らしながら、真四角の氷を出してくれるリム。その氷をかき氷機にセットして、横についているハンドルを回す。


 ――ガリガリガリガリッ


 回転に応じて小気味の良い音が店内に響き渡った。


 氷が回ることで下についている刃で氷が削れ、その下に設置した器にサラサラと積もっていく。


「面白い」

「キュウッ」

「ふん、ただ氷が削れているだけではないか」


 ティナや小動物モンスターたちはかき氷機を置いたテーブルの横からひょっこりと顔を出して、興味深そうに眺めている。


 リムだけは興味なさげにそっぽを向いた。だが、実は興味深々であることはしっぽが雄弁に語っている。


 そして、数十秒ほどして器にこんもりと山のような削った氷の山が完成した。


 動作も問題ないらしい。


「やってみたい」


 ティナは無表情ながらその瞳には期待が現れていた。


「良いだろう」


 新しい器をセットして、アックはティナをハンドルが回せる位置に持ち上げる。ティナが一生懸命にハンドルを回し始めると、問題なくかき氷の土台が作られていく。


 暫くすると、アックと同じような山が完成した。


「楽しい」

「キュウッ!!」

『クゥッ!!』

「クルルッ!!」


 ティナが楽しそうにやっているのを見てスノーたちもやりたがり、1人ずつテーブルに乗っかって楽しそうに削っていく。


「リムも」

「ティナに請われては仕方あるまい。うん、仕方ない」


 うずうずしているの見るに見かねてティナが誘うと、リムは嬉しそうに尻尾を振ってやってきた。


 前脚を器用に使ってハンドルを回し、自分の分を削り出す。


「ふ、ふむ。悪くはないな」


 言葉とは裏腹に顔は満足げだ。


 リムは体が大きいので器5杯分くらいの土台を作った。


 それに各々がシロップとフルーツを好きなように盛り付けてかき氷の完成。


 皆で食べる。


「ふん。たかが氷ではあるが、腹の足しにはなるな。特にこの青い奴は、もっと食ってやってもいいぞ」


 ティナたちは元々食べたことがあるが、リムは初めてだ。言葉とは裏腹に、満更でもないような表情と尻尾の様子で気に入ったことが分かる。


 特にスォーダの実を使ったかき氷が気に入ったらしい。


 それからアックはリムが満足するまでかき氷を作ってやった。


 皆が楽しそうに氷を削る様子を見ていると、客自身に氷を削ってもらうのもありかもしれない。


 アックはそう考えた。


 仮説を実証するために、再び臨時かき氷店をオープンして実践。


「可愛い!!」

「なにこれ、面白ーい!!」

「たーのしー!!」

「不思議ねぇ!!」


 その結果は大成功。


 目新しさと自分で作れる楽しさ、そして、かき氷機の可愛らしさも相まって、女性客や子供たちを中心に多数の人気を集めた。


 店内が凄く過ごしやすい温度になっていることをアピールしたチラシを配って宣伝に努め、明日のために更なる準備を進める。


 まず、皆の前で万年氷をお披露目。


 大きいので外で出した。


「これが万年氷だ」

「キラキラして、涼しい」


 太陽に照らされた万年氷の塊は、光を反射してとても美しい。


 ティナたちは見入っていて、しばらく眺めてボーっとしていた。


 それに、グレートブリザード山では感じなかったが、周りが暖かい場所で取り出すとその効果は歴然。万年氷がそこにあるだけで辺りの温度が数度ほど下がっている。


 リムが家族になった今となっては必要ないが、確かにこれがあれば室内は過ごしやすい温度になっていただろう。


「触ってもいい?」


 興味津々な様子でティナがアックを見上げた。


 万年氷は少し触ったくらいでは溶けないので、手がくっついて凍傷になることはない。


 だが、万年氷は周りの気温を下げるくらい冷えている。長い間触っていれば、その限りではないので注意が必要だ。


「ああ。ちょっとだけだぞ」

「分かった」


 ティナはアックの言葉を聞き入れ、ピトリと万年氷に手を触れた。


「冷たくて気持ちいい」


 モンスターたちもティナの真似をして万年氷に群がる。


「さて、始めるか。はぁあああああっ!!」


 暫くして皆を万年氷から全員を離すと、本来の目的に取り掛かった。


 気合と共に大剣を抜く。


 凄まじい勢いで振り終えると、そこにはリムを筆頭にしたモンスターたちの巨大な氷像が姿を現した。


「すっごい」

「キュキュッ!!」

『クククゥッ!!』

「クルルルッ!!」


 ティナも含め、モンスターたちも大興奮。


「我の雄大さを表れているな。悪くない」


 リムも自分の像を見て満足そうに頷いていた。


 そう。


 更なる準備とは、客寄せの氷像づくりだ。


 これで沢山の客が集まるはず。


 アックはそう確信していた。


「来ないね」

「そうだな……」


 しかし、客は増えなかった。


 なぜなら、その氷像がモンスターだと勘違いされ、逆に住民たちが怯えることになったからだった。


 アックたちは騎士団に怒られるまでその原因に気づかなかった。

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