第045話 首狩り、新しい家族を紹介する
「ぐす……」
もう出るものが無くなるくらい涙を流したティナは落ち着いてきた。
アックはティナから離れる。
話をする前にやっておくことがある。
「ティナ、自分が悪いことをしたって分かっているな?」
「うん……」
ティナは賢い。
寂しさが溢れてしまい、衝動的にマリアの家を抜け出した時は考えが及ばなかったが、今はぐっすり寝て涙を出し切り、すっかり精神状態が安定している。
冷静に考えると、自分の行動が沢山の人たちに迷惑をかけたことを理解していた。
「なら、まず皆に言うことがあるはずだ」
アックとしては、反省しているのならこれ以上怒るつもりはないが、謝罪もできない人間にはなってほしくなかった。
自分にも落ち度があったことは間違いないが、今回の一件は間違いなくティナが引き起こしたことだ。
何をするにも謝罪は必要だろう。
「勝手に抜け出してごめんなさい」
ティナはベッドから降りると、皆に行儀よくペコリと頭を下げる。
「いえ、本当に無事でよかったです。一緒いられなくてごめんなさい」
マリアは立ち上がると、ティナに近づいてギュッと抱きしめた。ティナも応えるようにマリアにギュッとしがみつく。
お互いの謝罪が済んだ後、アックが口を開いた。
「マリア、本当にすまなかった。後日改めて謝罪にいく」
「いえ、そこまでしてもらう必要はありません」
「そうはいかない」
相手が許してくれているから、謝ったら終わりというのはよくない。親は子供がやったことの責任をきちんと負う必要がある。
特に、マリアは貴族だ。
貴族の家で騒ぎを起こしておいてなんのお咎めもなしでは、マリアの家が舐められるし、よからぬ噂が立ってしまうだろう。
どういう落としどころにするかは分からないが、なんらかのけじめは必要だ。
「……そうですね。分かりました」
マリアもそのことが分かっているので、渋々ながら受け入れた。
ひとまず今ここでの話はこれで終わりだ。
ティナがようやくアックの後ろで大きな欠伸をするリムに気づく。
「おっきいもふもふ」
「ああ。新しく家族になったリムだ」
アックの紹介を受けてリムが前に進み出てティナに近づいた。
「お前がティナか。我を恐れぬとは流石アックの娘だ」
「喋った!!」
ティナはモンスターが話ができるとは思っていなかったので、大きな声を上げて目を見開いて飛び上がる。
「我はフェンリルだ。人語くらい話せる」
「凄い」
ティナは素直にキラキラとした尊敬の眼差しをリムに向けた。
「はーはっはっ!! そうだろう、そうだろう。これからは我が守ってやるから安心するといい」
おだてられてリムは気分良さそうに笑い声を上げる。
「もふもふしていい?」
「ふん。ティナは群れの一員だからな。許可する。だが、我が誰にでもそんなことするような節操なしだと勘違いするんじゃないぞ」
仕方ないといいつつも、リムの尻尾は嬉しそうに揺れていた。
「うん。ふわぁ……」
ティナはリムの胸元にしがみつくと、柔らかな毛の中に埋もれてしまう。その柔らかさにティナは天にも昇るような気持ちになった。
「キュウッ!!」
そこに口を挟むのはスノー。ベッドの上で両方の前足を腰に当てて、ティナを守るのは自分だと主張する。
それはリムも聞き捨てならない。
「なんだと!! 我とやろうというのか!!」
「キュキュウッ!!」
お互いに一歩も譲らず、視線の間で火花を散らした。
「そのくらいにしておけ。喧嘩せず、協力してティナを守ってくれ」
「ふん。群れのボスがそういうのであれば従ってやろう」
「キュウッ」
アックに宥められ、お互いにそっぽを向いて不承不承ながら了承するのであった。
――くぅ~
その時、誰かの腹の音が静かな室内に響き渡った。
「そういえば、ずっと食事をしていなかった。これから何か作ろう。お詫びってわけじゃないが、マリアも食べて行ってくれ」
その腹の音の正体は実はマリアの腹の虫。
マリアは夕食を食べた後、仕事を済ませ、何も食べずにティナを探していたので、安心した今になって空腹が襲ってきたのだ。
アックは気付かぬふりをしつつ、自分も家を出発してから一食も食べていなかったので、それを理由にしてマリアを食事に誘った。
「そ、それではお言葉に甘えて……」
マリアは恥ずかしそうに顔を赤らめて頷く。
「こやつらはどうするのだ?」
「縛って店の隅にでも置いておこう」
ひとまず侵入者たちを縛り上げて店舗スペースの隅に積み重ね、シルンに部屋の中を綺麗にしてもらった後、アックはお店のメニューでもあるナポリタンを作って振舞った。
「美味しい……」
出てきたマリアは今まで紅茶を飲んでばかりで、アックの料理を食べたことがなかった。
今日初めて口に入れたが、自分の家の料理人の食事よりもおいしいと感じてしまった。
そこでふとティナを見る。
彼女はそれが普通だと言わんばかりに美味しそうにモグモグと食べていた。
寝具といい、服といい、もしかしたら、ティナは私よりもずっと贅沢な暮らしをしているのでは……。
マリアはそう思わざるを得なかった。
「それでは、部下を連れてきますね」
「あぁ、世話になる」
「いえ、それではまた」
お腹が満たされたマリアは、侵入者たちを連れていくためにもふもふカフェを辞し、応援を呼びに行く。
部下を連れてきたマリアが、侵入者を連行していってようやくもふもふカフェは落ち着きを取り戻した。
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