第041話 クール系女騎士、幼女を探す

 ティナが自宅に着いた頃、突然呼び出しを受けたマリアはようやく仕事から解放された。


「やっと終わった。早く帰らないと」


 アックの不在でしょんぼりしているティナのことが心配だったマリアは、急いで馬車で家に帰る。


 15分ほどで家に着き、湯あみなどもせずに自室に向かった。


「ティナちゃん、眠れてるかしら」


 そう呟きながら自室の扉を静かに開け、ベッドに近づいていく。


 しかし、すぐに異変に気が付いた。


 室内に全く生き物の気配を感じないのだ。ティナやスノーたちの寝息も、寝返りなどによる衣擦れの音なども一切しない。


 もしかして……。


「ティナさん!!」


 嫌な予感がして急いでベッドに駆け寄って布団を剥ぎ取ると、そこには誰もいなかった。


「ティナさん」

「ティナさーんっ」

「ティナちゃーん!!」


 ベッドの下やクローゼットの中など、部屋中隅々まで探したが、ティナたちは影も形も見当たらない。


 これは非常事態だ。


 ――チリリリリリンッ


 マリアはベルを激しく鳴らしてメイドを呼ぶ。


「お嬢様、いかがしましたか?」

「お前たち、いったい何をしていた!!」

「ど、どういうことですか?」


 叱責されている理由が分からず、メイドは困惑しながらマリアに事情を尋ねた。


「ティナさんたちが居なくなった」

「そんなバカな……!?」


 ティナは幼い子供だ。こんな夜更けに勝手に居なくなるはずがない。


 となると、誰が侵入して連れ去った可能性が高い。


 たが、この家ではティナたちに何かが起こらないように頻繁に見回りしていたし、外では兵士たちが目を光らせていた。


 侵入者がいたら気づくはずだ。だから、ティナが居ないという事実がメイドには信じられなかった。


 しかし、ティナが居ないのは事実。


 マリアはすぐに行動に移した。


「お前たちの処遇は置いておく。今はそれどころではない。家中をくまなく探せ」

「はっ」


 ティナたちが寂しさを紛らわすために家の中でかくれんぼをしたり、侵入者がまだ家の中にいたり、という可能性はなくはない。


 メイドたちには屋敷内を探させ、マリアは家の外に出た。


「大切な客人が居なくなった。付近を探せ」

「承知しました」


 外の衛兵も最低限を残し、それ以外は街での捜索を手伝わせる。


「すまない。このくらいの背丈の白髪で青眼の幼女をどこかで見かけなかったか?」

「いえ、見ていませんね」

「そうか。ありがとう」


 マリアが道行く人に手当たり次第に尋ねるが、誰もが知らないと首を横に振った。


 1つの街の内門の内側と言えど、想像以上に広い。大通りだけでなく、路地裏も探し始める。


「ティナさーん、どこですか!! 居たら返事をしてくださーい!!」


 虱潰しに探していくが、なんの情報も掴めないまま時間だけが過ぎていく。


 このまま探していても埒が明かないので1度家に戻った。


「どうだ?」

「いえ、家の中は隅々まで探しましたが、どこにも見当たりません。それにどこからも何者かが侵入した形跡も出ていった痕跡も見つけられませんでした……」

「そうか……一体どこに……」


 しかし、家の中も成果なし。


 自分が少し目を離した隙にティナが家の中から消え去ってしまった。


 完全に自分の落ち度だ。


 だが、落ち込んでいる暇はない。


「家の中はもういい。お前たちも街での捜索に加わってくれ」

「承知しました」


 とにかく今できることは必死にティナの行方を探し、行方の手掛かりを手に入れること。


 マリアは再び街に繰り出して探していない場所を探しながら、聞き込みを続けた。


「マリア様!!」


 未だに何の情報も得られないままいたところ、マリアの許に兵士が血相を変えてやってくる。


「どうした?」

「警備中に真っ白なウサギのモンスターを見たという門番を見つけました」


 真っ白なウサギと言えば普通ならシロウサギだが、マリアはティナが連れている雪のように白いウサギのスノーが思い浮かんだ。


 全く関係ないシロウサギが逃げた可能性もあるが、話を聞いてみる価値がある。


「なんだと!? そこへ案内しろ!!」

「承知しました!!」


 マリアは急いでその門番のいる場所に向かった。


「話を聞かせてくれ」

「はい。何時間か前に、突然暗闇から真っ白なウサギが内門の前に姿を現したんです。何処かのお宅のペットかと思い、騒ぎになる前に捕まえようと思ったんですが、かなり素早くて逃げられてしまいました……」


 門番は項垂れた様子で話す。


 責任問題になる可能性があるので無理もない。


「そのウサギはどっちの方に向かった?」

「すみません。街中をあっちこっち走り回ったので目的地は分かりません」


 門番は意気消沈した顔で首を振った。


「そうか。少なくとも内門の方には来ていないんだな?」

「はい」

「分かった。おい、今内区で捜索している兵士とメイドたちを探して、外を探すように伝えてきてくれ」

「承知しました」


 一通り話を聞いたマリアは捜索範囲を変え、内門の外側である外区を探し始めた。


 しかし、外区は内区以上に広い。ティナを見つけられないまま、刻一刻と時間が過ぎ、そして、後ろから声を掛けられた。


「どうしたんだ?」


 振り返ると、大柄で強面のエプロン男が、大きな狼を引き連れていた。

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