第040話 闇組織、幼女を襲撃する
マリアが馬車に乗って仕事に向かった頃、闇の目の拠点の一室に部下が入ってきた。
「ボス」
「どうした?」
「動きがありました。マリアが騎士団の本部へと向かったようです」
「そうか。監視を怠るな。それといつでも動けるようにしておけ」
「はっ」
部下は指示に従い、すぐに部屋を出る。
「マリアの家を襲撃するのも一つの手段だが、もう少し様子を見るか」
ボスは座っていた椅子から立ちあがり、窓から外を見渡す。
マリアの家にも護衛がいるが、闇の目の構成員たちの方が数が多いし、それなりに実力もある。今行けばティナを攫うことは造作もない。
たがしかし、貴族の家に侵入してティナを攫えば、確実に大事になる。誰かを殺すことになれば尚更だ。
そうなれば、大々的な捜索や闇組織の駆除が始まりかねない。
避難ルートも用意しているし、他の街や国にも拠点は用意しているとはいえ、できればここの拠点を失うようなことはしたくない。
マリアが仕事に行ったとすれば、すぐに帰ってくることはないはず。それならもうしばらく様子見をしても問題ないだろう。
数時間後、ボスの読みは的中し、事態は動き始めた。
「ボス、ターゲットがマリアの家から脱走しました。どうしますか?」
まさかこれほど都合のいい事態になるとは思わなかった。
闇の目のボスとしても驚きだ。
ボスは次の指示を出した。
「よし、捕まえろ」
「はっ」
気になるのはターゲットがマリアの家を抜け出した理由とその目的地。それはターゲットの身の上を考えれば容易に分かる。
ターゲットは幼い子供。
家を抜け出した理由は、親であるアックがおらず、預かっていたマリアもいなくなった今、見知らぬ家での寂しさに耐えかねたと考えるのが自然だ。
だとすれば、ターゲットが向かう先はたった1つ。
それはターゲットの自宅。
ターゲットの自宅は郊外にある。それを考えると、人目がある街中で捕まえるより、郊外の家で捕まえたほうが目撃のリスクも兵士が駆けつけてくるリスクも少ない。
そっちの方が良い。
そう考えたボスは出て行こうとする部下を引き留めた。
「いや、ちょっと待て」
「どうしやした?」
部下は足を止めて振り返ると、不思議そうな顔でボスを見つめた。
「ターゲットの目的地はおそらく自分の家だ。監視を残してメンバーをターゲットの家の周囲に集めろ」
「どういうことですかい?」
「ターゲットは子供だ。マリアの家以外に滞在した場所はない。マリアの家以外に行く場所は1つだ」
「なるほど。そういうことですかい。分かりやした」
「準備が整ったら俺も現場に行く。メンバーに伝えておけ」
「承知しやした」
ターゲットはとんでもない高値が付く可能性が高い。万が一に備えて今回はボス自ら動くことに決めた。
ボスの命令を受けた部下は、メンバーに指示を出し、一般人を装ったメンバーたちを街の4つの門から外に出してターゲットの家へと向かわせる。
ボスの読み通り、ターゲットは自宅の方角へと動き出した。
物陰に隠れながら人目につかないように少しずつ内門へと近づいていく。可愛らしいモンスターたちを利用して内門を潜り抜けるティナ。
所詮は小動物系のモンスター、恐るるに足らない。だが、ターゲットがテイマーだとすれば付加価値が増える。
嬉しい誤算だ。
報告を聞いたボスはほくそ笑んだ。
ターゲットは街門も同じようにすり抜け、一直線に自宅に向かい、中に入っていった。
家の中から寝息が聞こえてきたので寝ているだろうという報告がきた。
ここがチャンスだ。
ボスは拠点を出てターゲットの自宅へと向かった。
「お前たち、準備はいいか?」
『うっす』
現場に到着したボスはメンバーに家を包囲させ、万が一にもターゲットが逃げられないようにする。
後は家の鍵を開け、拉致するだけ。
――カチャカチャ、カチッ
鍵開けが得意なメンバーによってもふもふカフェの扉の鍵が開けられた。
4人のメンバーが家に入り込む。
耳の良い部下を先頭にして、ターゲットがいるであろう部屋へとまっすぐ向かった。
そこには、大きなベッドの真ん中で、スヤスヤと安心しきった顔で眠るターゲットの姿が。
メンバー同士で顔を見合わせ、4人の内の1人がターゲットを縛ろうと体を近づけた。
「キュキュウ?」
「!?」
突然間近でモンスターの鳴き声が聞こえ、びっくりして声が出そうになるが、どうにか堪えて飛びずさった。
そこにいたのは暗闇の中でも分かるほどに真っ白なウサギ。シロウサギと呼ばれる、非常におとなしいモンスターの特徴に似ている。
ウサギはコテリと首をかしげた。
非常に可愛らしい。
「な、なんだよ、脅かすなよな……」
突然近くで鳴き声を聞いたメンバーは、ウサギだと知って安堵した。
「シロウサギにビビるなよ」
「うるせっ」
「静かにしろ。ターゲットを運ぶぞ」
「了解」
今はウサギに構っている場合じゃない。いち早くターゲットを確保し、この場を去るのが先決だ。
再びメンバーの1人がターゲットに触ろうとした。
――バタンッ
しかしその途中で、前触れもなくメンバーが倒れた。
「!?」
他の組織による奇襲かと思い、お互いが背中合わせになることで死角をなくして身構える。
「「「……」」」
しかし、誰かが居る様子も、再び襲いかかって来る様子もない。
ターゲットとモンスターの寝息だけが辺りを支配していた。
「うっ」
だが、安堵したところでまた1人メンバーが倒れる。
「「!?」」
死角を塞いでいたはずなのに仲間が倒れ、闇の目のメンバーたちは警戒を強めた。
「うっ」
それでも尚またメンバーが倒れる。
これでメンバーはたった1人。
「くそっ。うっ」
最後のメンバーは危険を感じて逃げようとしたが、他のメンバーと同じように倒れ、それは叶わなかった。
「キュッ」
朦朧とする意識の中、最後のメンバーの視界にウサギが映る。
そのウサギの真っ赤な目が怪しく輝いていた。
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