第034話 クール系女騎士、幼女と一緒に遊ぶ
ひとしきり遊んだティナたちは大人しく湯船に浸かる。マリアはスノーたちも浸かれるように台のようなものを沈めていた。
ティナたちは仲良く並び、顔だけ出している。
「はふぅ……」
「キュゥ……」
『クゥ……』
「クルゥ……」
その顔は幸せに満ちていた。
まさかこんな光景を見ることができるなんて……。
マリアはその光景を見て恍惚の表情を浮かべる。
「この家のお風呂はどうですか?」
「最高」
「そう言ってもらえるならこの家を建てた甲斐もあるというものですね」
乗り気でなかった家も、可愛い幼女やもふもふが喜んでくれるのなら悪くない。
しばらくお風呂に浸かった後、ティナとマリアは水分をしっかりとふき取り、スノーたちは体を震わせて水分を飛ばして脱衣所に戻ってきた。
「スノーさんたちはこちらに並んでください」
「キュウッ」
マリアはとある装置の前にスノーたちを並ばせる。
その装置は、プロペラがついていて、マリアがスイッチを押すとプロペラが回転して風が送り出されてくる。
つまり扇風機だ。
見たことがない道具にティナの興味が引かれる。
「これは?」
「魔風機ですよ」
「不思議」
ティナには風が吹いてくるのが不可思議だった。
「この羽根が回ると風が前に押し出されるんですよ」
「どうして?」
マリアは名家の出身。それなりに教育を受けている。
ただ、改めて魔風機の仕組みを聞かれると説明がなかなか難しいことに気づいた。
ある程度知識がある相手ならまだしも、ティナは勉強もあまりしたことがないので、彼女がパッと分かるように説明できそうにない。
「うーん、分かりやすく説明するのは難しいのでそういうものだと思ってください」
「分かった」
マリアが困った顔をすると、ティナはそれ以上聞かなかった。
風が当てられたことで水分が飛び、スノーたちの毛が乾いていく。
その間にマリアとティナは着替えを済ませる。
「こうやって遊ぶと面白いですよ。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
手持ち無沙汰になったところで、マリアが魔風機に向かって声を出した。
「!?」
それを見ていたティナは、その眠そうな目をカッと見開き、マリアの真似をして魔風機に向かって声を出す。
「私も。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「キ゛ュ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ゛」
『ク゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ゛』
「ク゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ッ゛」
そのティナの真似をしてスノーたちも鳴き声を上げた。
「はぅっ!!」
マリアは胸を押さえて俯く。
ティナたちの微笑ましすぎる姿にマリアの心が貫かれてしまったのだ。
「大丈夫?」
「うっ……え、えぇ、大丈夫ですよ」
心配そうにマリアの顔を覗き込むティナ。
その仕草にさえも萌えてしまうが、マリアはどうにか顔を起こして心配させないように笑顔を作る。
スノーたちの毛が乾いた後、マリアは皆を連れて客室へ向かった。
客室は落ち着いた雰囲気の内装と調度品で統一されていて、煌びやかさからはかけ離れているが、品があって居心地がいい。
その奥には大きなベッドが設置されていた。
ティナとスノー、シフォンたちはすぐにベッドにダイビング。
「まぁまぁ」
「キュウッ」
弾み具合をチェックしたティナの評価は厳しい。
「これでも高級品なんですが……」
マリアはティナの言葉に困惑する。
貴族のマリアの家に使われているベッドは高級品だ。しかし、アックの家のベッドは、最高品質の木材であるエルダートレントのフレームと、アックが持っていた最高の素材を使用したマットレスで作られた世界最高の一点物。
それと比べられてしまうと分が悪かった。
「クルルッ」
シルンが頭をマリアの足に擦り付ける。
「慰めてくれるんですか?」
「クルゥッ」
「ありがとうございます」
マリアはシルンを抱き上げてソファへ。
「はわぁ……」
マリアはソファの上でシルンを撫でて癒される。口端から涎が垂れそうだ。
――コンコンッ
しかし、メイドがやってきたので顔をキリッと引き締めてシルンを床に下ろした。
「入れ」
「失礼します。飲み物をお持ちしました」
「そこに置いておいてくれ」
「承知しました」
すぐにメイドを下がらせると、全員に飲み物を配る。
「ティナさんたちはこれで涼んでください」
「ありがと」
ティナがコップを受け取ってクピクピと飲み始めた。
さて、これから何をして過ごそうか。
「ティナさんはお休みの日は何をしてるんですか?」
「お絵描きとか、縫いものとか、庭で遊んだり、街に行ったり」
「それじゃあ、外は暑いですし、お絵描きでもしましょうか」
「うん」
――チリンチリンッ
マリアは特別製のベルでメイドを呼ぶ。
「絵を描く道具を持ってきてくれ」
「承知しました」
「スノーたちも描く。マリアも描く?」
マリアにとってティナの言葉を福音だった。
なぜなら、絵を描きたいと思ってもずっと言い出せなかったから。
これ幸いとその流れに乗ることにした。
「そうですね。それでは全員分を」
「かしこまりました」
お絵描き道具を持ってこさせると、皆で静かに絵を描き始める。
頭の中にあるイメージを表現するのはとても楽しかった。
マリアは初めて描く絵に夢中になった。
しばらくすると、ティナが描き終わった絵をマリアに手渡す。
「はい」
「これは私……ですか?」
そこにはマリアの似顔絵が描かれていた。
その絵は未熟ながらマリアの特徴をよく捉えられている。
「そう」
「とても上手ですね」
「にへへっ」
「天使ぃ……」
マリアに褒められたティナは嬉しそうにはにかむ。
その余りに可愛らしい表情を見たマリアは人に見せてはいけない顔をする。
「マリアは何描いてるの?」
「え、あ、私はこれです」
ティナの言葉で顔を引き締めたマリアも同じように絵を差し出した。
マリアの紙にはティナたちが可愛らしくデフォルメされた絵が描かれていた。
アックの写実的な絵とは対照的で、それでも初めて描いたとは思えないくらいに上手い。
「可愛い」
「あ、ありがとうございます」
ティナに褒められて嬉しそうに頬を赤く染めるマリア。
その表情は1人の女の子だった。
「これは……」
ティナたちがいれば、女の子らしいことができると気づいたマリア。
彼女は、ティナと遊ぶのに必要だからという口実で、可愛らしい物を集めたり、遊びの道具を買ったりすることに決めた。
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