第030話 首狩り、提案を受ける
「それじゃあ、またな」
「ああ」
店じまいをした後、知り合ったお隣さんに別れを告げ、アックたちはクラーフの店に寄った。
かき氷を本格的に提供するために、かき氷機とそれに見合う器を作ってもらう伝手を紹介してもらうためだ。
「どうにかできないか?」
「任せておけ」
描いた絵と図面を見せると、こういう道具や食器を作るのが得意なクラ―フの職人仲間達に頼んで作ってもらえることになった。
アックがカフェで提供するかき氷に必要な物は、氷、シロップ、かき氷機、器の4つ。
これで後は氷とシロップだけだ。
氷は街で買えるが、値段が高すぎる。街で売っている氷を仕入れてかき氷を作ったら価格が高くなってしまう。
それでは頼みづらいし、看板商品にはならないだろう。
今回は臨時ということで誰でも購入しやすい金額にしていたが、本格的に提供するとなったら話は別だ。
アックとしては、お金に困っているわけではないし、儲けを出したいわけでもないが、商売として最低限赤字にならないようにはしたかった。
だから、もし安く提供するのであれば、自分で氷を調達しなければならない。
南国では店主が、氷を作り出す魔法を使えるか、そういうモンスターをテイムしていた。
残念ながらアックには氷を作り出す魔法は使えないし、氷系のテイムモンスターもいない。
近くで氷が獲れる可能性があるのは、グレートブリザード山だけだ。万年氷もあるらしいし、ちょうどいい。
しかし、少し距離があるため、山にはすぐに旅立つわけにはいかない。
そのため、まずはシロップを先に準備しようと思う。
今回の臨時かき氷店で提供したのはシロップは1種類だけだった。しかし、南国の店ではいくつかの種類のかき氷が提供されていた。
もふもふカフェでも何種類か出したいと考えている。
家に帰ってきたアックは、早速シロップの準備に取り掛かる。
「何を作るの?」
「他の種類のかき氷も作ろうと思ってな」
「1種類じゃないの?」
「勿論だ」
ティナは初めてかき氷を食べたので、1種類しかないと思っていた。
しかし、他にも種類があることを知って、あんなに美味しいかき氷が他にもあるんだと、乏しい表情ながら目を輝かせる。
アックが考えているのは4種類。
1つ目は今回提供したイチーグォを使った白とピンク色のかき氷、2つ目はミェロンを使った白と緑色のかき氷、3つ目はスォーダの実を使った白と青色のかき氷、4つ目はレムォンを使った白と黄色のかき氷。
これは南国でもお馴染みの種類であり、多くの人に昔から愛されている商品だ。
カーム王国でも親しまれているフルーツなので、そう大きく外すこともないだろう。もし人気が出るようならその時に改めて他の種類を出すことを考えればいい。
アックはそれぞれの果物を煮詰めてシロップを作る。
ティナはカウンターに座って足をパタパタとさせ、モンスターたちはカウンターの上に乗って、アックが調理している姿を興味深そうに眺めていた。
「良い匂い」
「キュウンッ」
『クゥンッ』
「クルルンッ」
あまーい匂いが漂ってきてティナたちがクンクンと鼻をひくつかせる。
動きが揃っていて可愛らしい。アックの頬が自然と緩む。
「はぁああっ!!」
出来上がったシロップを冷やした後、4種類のかき氷をティナたちの前に置いた。
「美味しっ」
「キュウッ!!」
ティナたちは新しい種類のかき氷を美味しそうに食べる。
いつの間にか4杯とも完食していた。
皆が嬉しそうに食べている姿を見て、アックも嬉しくなる。
ティナはスォーダを使ったかき氷、スノーはイチーグォを使ったかき氷、シフォンたちはレムォンを使ったかき氷、シルンはミェロンを使ったかき氷がお気に入り。
「スォーダが好き」
「キュウキュィイイッ!!」
『クゥウウウッ!!』
「クルルルルッ!!」
皆で嬉しそうに話し合っている。
それぞれ、気に入ったかき氷をお代わりした。
それぞれ量を少なめにしていてよかった。全部1人前の量があったら、お腹を壊してトイレに籠ることになっていたかもしれない。
流石にそれを経験として体験させるわけにはいかないだろう。ティナたちの保護者として、食べ過ぎないようにしっかりと見ていなければならない。
後は氷だけ。
しかし、それが1番が難題だった。
数日後。
アックは未だに氷の件を悩んでいた。
冒険者ギルドや商業ギルドでティナの世話をしてくれる人を募集してみたり、宿屋などを回ってみたりしたが、素性が不明で信頼できる相手がおらず、対応も余りよくなさそうという結論に至った。
「うーむ」
眉間に皺を寄せていつも以上の威圧感を放つアック。
どうしても気になったマリアが話しかける。
「どうかしたんですか?」
「グレートブリザード山に行きたいんだが、ティナを置いていくのは心配でな」
アックはギルドでの件も含めてマリアに話した。
少しの時間ならまだしも、1日以上となると、スノーたちがいるとはいえ、1人店に置いて行くのは心配になる。
「そうなんですか……そ、それでは私がお預かりしましょうか?」
話を聞いたマリアは、少し考えた後なんだかモジモジした様子で提案する。
思ってもみなかった提案を受けて思案するアック。
マリアはきちんと身元がしっかり証明されている人物。カフェにも何度も来てくれているし、為人もある程度わかってきた。
確かに預けるならマリアが1番安心できる。
「……いいのか?」
ただ、客に頼ってしまっていいのか、そこだけが気になった。
「ぜひ。家には部屋が沢山余っていますから」
ここまで言ってくれるなら頼らせてもらうことにした。
後はティナの気持ち次第。
1日以上アックと離れることになる。
「そうか。ティナ、いいか?」
「……大丈夫」
ティナは少し寂しそうな顔をしたが、最終的に首を縦に振った。
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