第029話 首狩り、反応を見る

 その日の夜。


「うーむ」


 寝る準備を全て済ませた後、アックは机に向かって頭を悩ませていた。


「何描いてるの?」


 ティナが背後からひょっこりと顔を出して覗き込むと、そこには紙に描かれた不思議な形状の物体が。


 アックは再び絵を描いていた。


 モンスターたちも興味を引かれ、スノーとシルンがティナの肩に、アックの頭と肩にはシフォンたちが無理やりよじ登る。


「これはな。かき氷を作る道具だ」


 アックが描いていたのは、以前南国でかき氷店で見た、氷を削り出す道具。


 マリアが驚いていたように、普通かき氷はナイフで削り出して作ったりしない。


 本来は専用の道具を使って作る。


 その道具は、真ん中に氷を設置して、横についているハンドルを回すと、氷が回転して下にある刃が氷の底を削り、削った氷が落ちる仕組みになっている。


 完全に仕組みを覚えていたわけじゃないので、うろ覚えで絵を描いていたのだ。


「可愛い」

「それは良かった」


 ただ、南国で見たその道具は武骨に見えたので、アックなりにもふもふモンスターをモチーフにした見た目に改良していた。


 その可愛らしい見た目にティナもご満悦だ。


「お店でかき氷出すの?」

「まだ分からない」

「皆喜ぶと思う」

「そうだな」


 アックがティナの頭を撫でると、彼女はくすぐったそうに笑う。


 常連たちの反応が良かったし、ティナもスノーたちも同じ考えのようだ。


 ただ、その前に試したいことがあった。


「今日はそろそろ寝よう」

「うん、わかった」


 だが、これ以上の夜ふかしはティナの成長に良くない。


 話を区切り、アックはティナをベッドに連れていって、もふもふモンスターたちと共に眠りについた。


 次の休業日。


 アックは街に出掛けようとしていた。


「家で休んでいてもいいんだぞ?」

「手伝う」

「そうか。ありがとう」


 ギュッと服の端を握るティナを置いていくわけにも行かず、彼女を抱き上げる。


 今日は許可を取って出店を出すつもりだ。


 それは臨時のかき氷屋。


 周りの反応は良かったが、実際に街の人たちの反応を見てみたかった。


「キュウッ」

『クルゥッ』

「クルルッ」


 当然スノーたちも一緒に行きたがり、全員で街に行くことになった。


 商業ギルドで許可を取り、市場にやってきて、自分たちに割り当てられた場所に辿り着く。


 アック一人なら適当なテーブルと器だけで営業するつもりだったが、ティナたちがいるので、少しでも暑さを柔らげるために四本の支柱で立つ天幕を組み立てる。


 すぐに水分を補給できるように魔冷庫にかき氷の用の氷の他に、沢山の飲み物も入れておいた。


 ただ、それでも気温が高くなれば、モンスターたちはまだしもティナが体調を壊しかねない。


「何かあったらすぐに言え」

「分かった」


 頭にポンと手を置くと、ティナはしっかりと頷いた。


「よろしく」


 出店の準備が終わると、お隣さんと挨拶を交わす。


「お、おう。あんちゃん、今日はよろしくな」

「はぁぁあああっ。食ってくれ」


 ヒラヒラエプロンをつけたアックが放つ何とも言えない威圧感に戸惑う隣の店の店主。


 アックは彼にお近づきの印としてかき氷を作って差し出した。


「い、いいのか?」

「ああ」

「それじゃ遠慮なく……美味い!! なんて美味さだ!!」


 店主はアックから器とスプーンを受け取り、おそるおそるかき氷を口に入れた。


 その瞬間、その余りの美味しさに店主が叫ぶ。


 店主はすぐに食べ切ってしまった。


「ありがとな。美味かった」

「喜んでもらえて何よりだ」

「俺の料理も食ってくれ」

「ありがたく頂こう」


 お返しに隣の店主の料理を貰い、反対隣りの店とも同じようなやり取りを交わす。


「美味し」

「そうだな」

「キュウッ!!」


 その料理はティナたちと分けて美味しくいただいた。


 開店すると、すぐに客が集まり出す。


 アックは全く意識していなかったが、お隣さんにかき氷を食べさせたことによって、目新しいかき氷にもかかわらず、住人の目に留まったのだ。


「お、俺にもくれ」

「わ、私にも」

「ぼ、僕にも」


 ただ、店を開いているのはヒラヒラエプロンの強面男。誰もが一瞬躊躇してしまうのは仕方のないことだろう。


「いらっしゃいませ。もふもふカフェ、臨時かき氷店へようこそ」

「キュウィィッ」

『クゥクゥッ!!』

「クルルッ、クルルッ!!」


 さらに、無表情ながら可愛らしいティナが看板娘として、もふもふモンスターたちがマスコットとして客を呼び込む。


「か、可愛い……!!」

「なんだ、ただの天使か……」

「モンスターがこんなに愛らしいなんて……」


 相乗効果で客足が激増。


 目も回るような忙しさになった。


 ティナたちには何度も水分を取らせてしっかりと休憩を取らせながら、アックは休むことなく凄まじい動きで一人で対応をやりきった。


 宣伝がてら客にはもふもふカフェのチラシを配るのも忘れない。


「お疲れ様」

「ありがとう」


 ティナが魔冷庫から取り出した飲み物をコップに注いでアックに渡す。アックは喉の渇きを潤すために一気に飲み干した。


「あんちゃんのおかげでこっちも繁盛したよ。ありがとな!!」

「わたしんとこも同じだよ!! ありがとね!!」

「自分の仕事をしただけだ。礼を言われるようなことじゃない」


 アックの店が繁盛したおかげで人が集まり、お隣さんたちも儲けてホクホク顔。


 何かをしたつもりはないが、礼を言われたことにアックは嬉しくなった。


「出しても良さそうだな」

「楽しみ」


 アックは街の住人からも良い反応を得られたのでかき氷を出すことに決めた。


 ティナとモンスターたちが嬉しそうに笑う。


 だが、そんな幸せそうな様子を遠くから見つめている者たちがいた。

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