第027話 首狩り、暑さ対策を考える

 その日はとても暑かった。


 元々温暖な気候の地域だが、夏が近づいて暑さが増してきている。


 ――チリンチリンッ


「いらっしゃい」

「こんにちは。今日は暑いですね」


 見た目や態度がとても涼しげなマリアが店にやってくる。しかし、その額や腕に汗が玉のように浮かんでいた。


 それが外の暑さを物語っている。屋内は多少マシだが、外はギラギラとした日差しに照らされて辛かっただろう。


「ああ、これを飲んで涼んでくれ」

「ありがとうございます」


 サービスのレムォンを絞ったおひやをゴクリゴクリと喉を鳴らして飲み干す。


 普通の男が見れば、その艶めかしさに息を飲むことだろう、アックは全く動じないが。


「いらっしゃいませ」


 ティナがいつもと同じようにお盆におしぼりをもってやってくる。


「あ、あら、ティナさんは今日は涼し気な格好ですね」

「暑いから」

「そうですね、あの服はちょっと暑いですからね」


 ただ、今日はメイド服ではなく、水色のキャミソール型のワンピース姿。


 厚手の布で作られたあの服では体調を崩してしまいかねないので、今日は涼しい格好している。


 マリアはおしぼりを受け取った後、ティナの可愛らしさに手をワキワキしそうになるのをグッと堪えた。


 アックは会話の邪魔をせずにお代わりを注ぐ。


「うん。これも可愛いから好き」

「えぇ。とても可愛らしいと思います。どちらで頼まれたんですか?」


 マリアはそれなりに高貴な身分の家の出身だ。


 しかし、この辺りでこれほど見事な刺繍やギャザーが縫われたワンピースを手掛けている職人が浮かばなかった。


 だから、その凄腕の職人のことを気になった。


「アックが作った」

「え?」


 しかし、ティナの言葉を聞いた瞬間マリアの全てが停止する。


「アックが作った」


 マリアからの返事がないので、もう一度言うティナ。


 二度目の言葉で、マリアの顔がギギギギとブリキ人形のようにアックの方を向いた。


「ん? ああ、俺が作った」

「えぇえええええええっ!?」


 見られていることに気づいたアックは顔を上げてティナの言葉を肯定する。


 マリアはアックが身に着けているヒラヒラのエプロンや、彼がぬいぐるみを作っていたことを思い出す。


 その時も衝撃を受けたが、今回の衝撃はその時以上だ。


 それも仕方ないことだ。


 とても可愛らしい女性服を大柄でムキムキで強面のアックが作ったとは想像できない人がほとんどだろうから。


「どうしたの?」


 先入観のないティナには、大柄の強面の男が可愛らしい服を作ることがおかしい、という概念がない。


 だからティナにはマリアが驚いている理由が分からなかった。


「い、いえ、まさかアックさんが作ったとは思わなかったので……」

「ふーん、そうなんだ」

「あ、そ、そんなことより注文ですね。いつものお願いします」


 ティナの無垢な視線がまるで自分を責めているように思えて、マリアは焦ったように話題を変えて注文へと逃げる。


「あいよ」

「コホンッ……それでは昨日の続きですが」

「ああ」


 アックは何も言わずにすぐにアイスティーを作り始め、マリアは咳払いをしてそのまま調査に移った。


 1時間後。


「それでは今日はこの辺りで」

「ああ」


 調査という名の仕事関係の世間話を終えたマリア。


 彼女は今日もお気に入りのシルンを探す。


 しかし、いつもなら近くに来ているのに見当たらない。


「あっ……」


 ようやく見つけたと思えば、ティナとモンスターたちはマリアから離れた客席に集まってぐったりしていた。


「あつい~」

「キュウ……」

『クゥ……』

「クルゥ……」


 ティナがテーブルに突っ伏し、その周りでモンスターたちは少しでも涼もうと床に伏せている。


「これは撫でられそうにありませんね……」


 マリアは残念そうに呟く。


「あ、いえ、決して私が撫でたいわけではありませんが」


 だが、その直後にハッと気づいて誰ともなく言い訳をしてそっぽを向いた。


 全く素直じゃない。


「何かいい方法を知らないか?」


 アックとしては、皆の健康のためにもどうにかしてやりたかった。


 換気して空気を循環させたり、冷たい飲み物を飲ませたりしているけど、暑さは自体はどうしようもない。


 これからこの暑さがさらに増していく。どうにかしなければ、皆が体調を崩してしまいかねない。


 冷たい食事をしたり、水浴びしたりは思いつくが、それでは根本的な解決にはならない。やらないよりはマシだが。


「この国の北にあるグレートブリザード山の万年氷があれば、室温が下がるかもしれません」

「それは良い考えだ」


 万年氷とは、その名の通り一万年以上の間固まり続けていると言われる氷で、暑い日差しの中でも溶けないらしい。


 確かにそれを室内に設置すれば、かなり室温をさげることができそうだ。


 話を聞く限り少し距離がありそうなので、すぐに出発というわけにはいかない。


 スノーがいるとはいえ、ティナ1人を残して何日も家を空けるのは心配だ。きちんと準備をしていかないといけないだろう。


 できれば、出かけている間、面倒を見てくれる人がいるのが理想だ。


「そういえば……」


 それはそれとして、アックはこの季節にピッタリなメニューを思いついた。


 

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