第023話 首狩り、新しい家族を紹介する

「クルルッ!!」


 ピュリーベアの体が淡く光り、その光に全員が包み込まれた後、すぐに消えた。


「これは……」


 アックが自分の体をあちこち見て確認すると、服についた汚れが綺麗さっぱり消えて、まるで新品のような輝きを放っている。体もサッパリしていた。


 ティナやスノーたちも同じ動作をして体を確認している。


 ティナの可愛らしさがさらに際立ち、スノーたちの毛並みもフワフワのつやつやで一段と愛らしい。


 これがピュリーベアの持つ能力「ピュリア」。


 不浄なものを浄化して消滅させることができる。本来はアンデッドや呪いなどを浄化する力だが、副次的な効果で汚れを綺麗さっぱり落としてしまう効果がある。


 この能力のせいでよく人間に狙われていた。


「この力で手伝いたい、だと……?」

「クルゥ」

「……」


 アックはピュリーベアの健気さに感動で打ち震える。


 顔がだらしなく緩んでしまうのをどうにか堪えた。


 ふぅ、危ない危ない。しかし、今はまだ傷が治ったばかり。


 それだけが心配だった。


「無理はしてないか?」

「クルルルルゥ」


 ピュリーベアは自宅スペースの色んなところを浄化して、すっかり元気になっていることをアピールする。


 確かにこれだけ元気なら大丈夫そうだ。


「分かった。手伝ってくれ」

「クルゥ」


 アックはピュリーベアの気持ちを尊重し、仕事を任せることにした。


 そこでまだピュリーベアに名前をつけていなかったことを思い出す。


「ふむ……よし、お前の名前はシルンだ」

「クルゥッ」


 今までの様子を見て、掃除好きの妖精シルキーの名前からとった。


 次の日。


 店をオープンする前に、シルンは店舗スペースを綺麗にしてくれた。


 もう本当にピッカピカだ。


 いつも客を迎える前にも掃除をしていたが、そんなものは目じゃない。店全体から清潔感が溢れている。それで居て年月が経った味は失われていない。


 完璧な仕事だった。


 とはいえ、今アックの店には客がたった2人。開店休業状態のまま、時間だけが過ぎていく。


 ――チリンチリンッ


「こんにちは!! なんですか、これ!! 綺麗すぎて驚いたんですけど!!」


 そして、ようやく今日の客第一号がやってきた。


 真面目眼鏡青年は店に入るなり、眼鏡を押さえながら興奮気味にアックに話しかける。


「いらっしゃい。シルンのおかげだ」

「クルルッ」


 アックが青年にシルンを紹介した。シルンは自己紹介がてらに青年を浄化する。


 青年はその光景に目を大きく見開いた。


「もしかしてピュリーベアですか!?」

「そうだ」

「なかなか見つからないし、警戒心の塊なのに凄いですね……」


 青年は非常に珍しく、テイムされてもあまり懐かないと言われるピュリーベアが、アックの言葉に素直に従っているのを見て感心する。


「たまたま怪我をしていたのを拾っただけだ」

「へぇ。そういうことですか」


 そして、理由を聞いて青年は納得した。


「キュウッ?」

「いやいや、僕はスノーちゃん一筋さ。マスター、いつものを」

「あいよ」


 青年のお気に入りであるスノーが近づくと、慌てた様に取り繕うが、その途中でスノーの変化に気づいた。


「あれ? スノーちゃんもいつも以上にキラキラでもふもふですね。いや、ここにいる皆が昨日までよりも輝いて見えますね。凄い……」


 青年はスノーを抱き上げると、そのふわもこな感触に思わず頬を緩ませた。


 もう死んでもいい……。


 先ほどまで真面目な眼鏡青年だったのに、今はもうどこへやら。娘が大好きな親バカの父親のようにデレデレとした顔になっている。


「これもシルンのおかげだ」

「浄化がここまでの力を発揮するなんて思いもしませんでした」


 キュっと顔を締め直して答える青年だが、次の瞬間にはだらしのない顔に戻っていた。


「俺もだ。少し待っててくれ」


 アックは一度しゃがんでシルンを撫でる。シルンは気持ちよさそうに目を細めた。


「はい。一時間でも二時間でも待ちますよ!!」

「そんなには掛からん」


 アックがキッチン内に戻り、料理を始めると青年はウキウキとした様子で返事をした。


 その様子を見て微笑ましくなったアックは、「ふっ」と鼻で笑った。


 ――チリンチリンッ


 そして、2人の目の客であるクラ―フもやってくる。


 彼は店内を見て一瞬驚きはしたが、すぐに堪えて表情を戻した。


「いらっしゃい」

「うむ」

「新しく仲間になったシルンだ。よろしくな」

「クルルッ!!」

「ああ、よろし――なっ!?」


 しかし、紹介された後、青年と同じように浄化され、その驚きに堪えられずに大きく顔を歪めてしまう。


「クゥ?」

「コホンッ」


 ロールが近づいてくると、咳払いをしてどうにか顔を戻し、ロールを連れていつもの定位置へと座った。

 

 こうやって客が入ってくるたびに浄化して、床も綺麗にしておけば、仮に寝転んだとしても大丈夫だな。


 アックは接客をしながらお店の新しい形を考えていた。


 ――チリンチリンッ


 2人に料理を提供した後、いつもならティナと話をしたり、裁縫したりして時間を潰しながら過ごしているのだが、今日はならないはずの3度目のベルがなった。


「いらっしゃい」


 少し戸惑いながらも、新しい客の来店に喜びながら呼びかける。


 入ってきたのは立派な鎧を身に着けて、帯剣していて、いかにも高貴な雰囲気の女性。


 整った涼しげな容姿をしていて無表情。何事にも動じず、とてもクールな印象だ。


「こんにちは。あなたがアックさんですか?」


 その女性は店に入ってくるなり、カウンターに近づいてアックに話しかけた。

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