第022話 首狩り、もふもふを介抱する
ピュリーベアを一刻も早く休ませるため、アックは揺れに気を遣いながら最速で走る。帰り道は何も起こることなく、家まで辿り着くことができた。
「おかえり」
「ただいま」
勝手口から家に入るなりティナがアックを出迎えた。
ティナの後ろにはスノーたちもいる。
「それは?」
抱き着こうとしたティナだが、アックが抱きかかえているものを見て不思議そうな顔をする。
アックはしゃがんでそれをティナに見せながら言った。
「ピュリーベアというモンスターだ。怪我をしていたから拾ってきた」
「大丈夫?」
ティナはぐったりとして意識のないピュリーベアを見て心配になり、アックの顔を見つめる。
「ああ。良く効く薬を使った。命の危険はないはずだ。目が覚めないのは流れた血が多かったせいだろう」
「そう。良かった」
説明を聞いたティナはホッとため息を吐いた。
アックは一度ピュリーベアをベッドに下ろし、糸を巧みに操って、ピュリーベア用のクッションを作り出し、その上に寝かせた。
ティナとスノーたちはクッションを囲んでピュリーベアを見守る。アックは彼女たちにピュリーベアのことを任せて、昼食の準備に取り掛かった。
しばらくして部屋に良い匂いが室内に充満する。
鼻をヒクヒクとさせたかと思うと、ピュリーベアがその瞼をゆっくりと開いた。
「……!?」
そして、自分が見たこともない場所にいて、周りに知らない相手がいたせいで、クッションから飛び降りて威嚇する。
「安心しろ。ここにはお前を傷つけるやつはいない」
そこに良い匂いを漂わせたアックがやってきてピュリーベアを宥めた。
ピュリーベアは死にかけていた自分がなぜか生きていることに気づく。ちょうど鏡に映った自分のお腹には、あったはずの傷がほとんどなくなっていた。
薄れる意識の中で自分を助けてくれた人間が目の前のアックだと思い出す。
その途端、警戒が解け、体から力が抜けてその場にへたり込んだ。
「食べろ」
アックがピュリーベアに近づき、目の前にスープの入った容器を置いた。
得も言われぬかぐわしい匂いがピュリーベアの鼻孔を擽る。
――クゥ……。
体が思い出したかのように腹の音を鳴らし、空腹の波が押し寄せた。
この匂いには抗えそうにない。
「キュルルゥ?」
「ああ。しっかり食べて体を治せ」
「食べていいの?」と問うピュリーベアにアックは頷いてみせた。
ピュリーベアは恐る恐るスープに口を付ける。
「!?」
その美味しさにカッと目を見開いたと思えば、一心不乱にスープを飲み始めた。
ピュリーベアの様子を見て大丈夫だと思ったアックは皆の分の昼食を並べ、自分達も昼食を食べ始める。
「おかわりはいるか?」
「クルッ」
すぐにスープを飲み干したピュリーベアに尋ねると、ピュリーベアは恥ずかしそうにしながらも首を縦に振った。
それから何度もおかわりをしたピュリーベアは、まだ治りきっていない体と満腹感からそのまま寝入ってしまった。
アックが抱き上げてクッションの上に戻す。
「可愛い」
「そうだな」
スヤスヤと眠るピュリーベアの寝顔を見て呟いたティナに、アックも同意するように頷いた。
それから数日。
ご飯を食べさせ、ブラッシングしたり、体を拭いてやったり、アックがもふもふカフェの営業の合間に甲斐甲斐しく世話を焼いた結果、ピュリーベアの傷が完全に塞がり、体調も大分良くなってきた。
「待って」
「クルルッ」
もう外で走り回って遊べるほどだ。
アックはその光景を見て癒される。
いつものメンバーにもふもふが増えて尊さが増したおかげで癒され度もアップだ。
最初は警戒していたが、ティナたちが自分に危害を加えないと分かると、ピュリーベアが歩み寄って一気に仲良くなった。
今は俺たちと同じベッドで一緒に寝ている。
しかし、すっかりなじんでいるが、ピュリーベアはアックの家の子ではない。
「これからどうするつもりだ?」
そして、さらに数日経った頃、アックが話を切り出した。
ピュリーベアの身の振り方を尋ねるためだ。
アックは行きたい場所があるのならそこまで送っていくつもりだった。
「一緒がいい」
ティナはピュリーベアに抱き着いて離れようとしない。スノーたちも離れたくなさそうにピュリーベアに群がる。
その気持ちはよく分かる。
アックとしてもピュリーベアは自分の家族のようになっていた。
「ティナたちもこう言っているし、俺もそうなれたらと思っている。もしよければ、これからも俺たちと一緒に暮らさないか?」
アックもこのまま一緒に過ごしたいと思っていたが、一番大事なのは本人の意思だ。
「クルルッ!!」
そしてその気持ちはピュリーベアも同じだった。
自分のことを大事にしてくれるここに居たいと、そう思っていた。
「そうか、ありがとう。これからはお前も俺たちの家族だ」
「キュルルッ!!」
アックが嬉しさでピュリーベアを抱き上げると、ピュリーベアは嬉しそうに鳴いた。
そして、ティナたちもアックに抱きついて喜んだ。
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