第021話 首狩り、もふもふを拾う
次の休日。
アックは食材の調達のため、少し離れた山まで出かける。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
「スノー、皆を頼んだぞ」
「キュウッ!!」
寂しそうなティナの頭を撫で、後のことをスノーに任せると、アックは出発した。
これから向かうのはファームレストの西に広がるカミール山。
そこには、美味しいと評判のフォーマボアやケナイバードが生息している。
フォーマボアは毛のない猪ようなモンスターで、ケナイバードもツルッツルの食肉になるために生まれてきたような鳥型モンスター。
どちらもボアカツサンドやチキンサンドをより美味しく、そして安く提供するために自分で獲ってくる必要がある。
そのついでに山の幸も探してみるつもりだ。
「むっ、あれは……」
走っていると、モンスターの群れが村に向かって侵攻しているのが見えた。
村から大急ぎで人々が逃げ出している。
見過ごすわけにもいかない。
家で待っているティナが心配だが、村を助けるために進行方向を変えた。
「ゲギャギャッ」
村を襲おうとしていたのはゴブリンと呼ばれるモンスター。
人間の子供くらいの大きさで、鷲鼻で尖って耳の醜悪な顔と、ぽっこりとした腹を持ち、ある程度の知能がある。
一匹見かけたら三十匹はいると思えと言われるほどに繁殖力の強いモンスターで、よく人間の村を襲っては被害を出す厄介者だ。
「ふんっ!!」
アックは村とゴブリンたちの間に立って剣を横なぎにした。
『グギャアアアアアッ!!』
それだけで全てのゴブリンの首が宙を舞い、全滅した。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
ゴブリンがいなくなったことに気付いた村民たちが戻ってきて、この村の村長がアックに頭を下げ、村民たちもそれに続いた。
全員がアックを救世主を崇めるような目で見つめている。
その様子に少々困惑してしまう。
「気にするな」
「いえ、そうは参りません。助けていただいておいて何もお礼をしないなど、カーム王国人の名折れ。何か要望はございませんか?」
礼を欲して助けたわけではないのですぐには思いつかない。
「あれは……」
そこでふとアックの目にこの村で飼育されている多数の牛が目に入る。
この村はどうやら酪農が盛んらしい。
牛乳の仕入れをどうしようか考えていたところだ。ちょうど良かった。
「牛乳を売ってくれ」
「いやいや、恩人に売るなどできません。無料でご提供させていただきます」
「誰かが損をするのは好まない。売ってくれるだけでいい」
アックとしてはゴブリンなど虫を踏み潰すように簡単に殲滅できる相手。
礼など必要ないし、無理もしてほしくない。それよりもこれからもお互いに良い関係を続けていきたかった。
「なんと……分かりました。そのようにさせていだきます」
意図を理解した村長は、その態度に感銘を受け、商人の間でも高値で取引される自慢の牛乳を、アックに優先的かつ格安で売ることに決めた。
「さて、どこにいるか……」
そんなことなど露知らず、牛乳を安く手に入れ、街から数日かかると言われるカミール山まで1時間ほどでやってきたアック。
走りながらお目当てのモンスターを探していく。
「見つけた」
数分程でフォーマボアを見つけたアックは、一瞬で間合いを詰めて頭を斬り落とした。
フォーマボアは気づくこともできないまま肉になった。
「グゲェゲーゲゲェ」
血の匂いに気づいて集まってきたケナイバード。
「はぁっ!!」
「グゲェ……」
アックに襲い掛かるが、ボア同様になす術なく首を落とされ、あっという間に多数の肉塊へと姿を変えた。
「帰ろう」
目的を達成したアックは、血抜きをしたモンスターをマジックバックに仕舞い、下山していく。
「ん? これはもふもふ?」
ただ、その途中でアックのもふもふセンサーがか細いもふもふの気配を察知した。
その気配の許へと走っていくと、横たわるモンスターが目に入る。
そのモンスターはピュリーベア。アライグマのような見た目をしていて、いろんな物を綺麗にする力を持っている。
その力のせいで人間に狙われることもある。
「うううううううっ」
「安心しろ、危害を加えるつもりはない」
ピュリーベアはアックが近づくなり、力のない声で威嚇する。
しかし、アックの声を聞いた途端抵抗を止めて気を失った。
その腹部には大きな切り傷があり、何者かに斬り裂かれたことが分かる。
その傷を見てアックの気持ちがざわつき、威圧感が漏れてしまうが、ピュリーベアが苦しそうな顔をしているのをみて、どうにか抑えた。
「待ってろ」
アックは、マジックバックの中からガラスの小瓶を取り出した。
これはポーションと呼ばれる薬で、大きな怪我でもたちどころに治してしまう効果がある。
以前報酬に貰った物だが、使う機会がないので死蔵していた。
「沁みるかもしれんが、我慢してくれ」
アックが声を掛けて傷にポーションを振りかけると、傷がみるみる小さくなって、ほとんど塞がった。
アックは目を覚さないピュリーベアを放ってはおけず、一旦家に連れて帰ることにした。
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