第016話 首狩り、糸を操る

 店舗を買った。


 内装もインテリアや家具の配置も終わった。


 材料も購入してメニューも考えた。


 後はそう、エプロンだけだ。


 キッチンに立つ上でエプロンは必須だ。そして、個人経営なので、そのエプロンを付けたまま客の前に立つことになる。


 そう考えると、エプロンとはカフェの店主の一張羅。デザインにもこだわらなければならない。


 アックはデザインを考え、糸を巧みに操ってエプロンを作り上げた。


「これでよし」


 そして、身に着けて少し緊張しながら鏡の前に立つ。


 これで一端のカフェの店主に見えるだろうか。


 アックは鏡の前でいろんなポーズを取りながら確認する。


 強面のアックが身に着けるには少々可愛すぎるような気もするが、エプロンによって雰囲気がマイルドになって丁度いいかもしれない。


 作業している姿を興味深そうに見ていたティナに感想を求める。


「どうだ?」

「可愛くて良いと思う」

「そうか」


 ティナに肯定されてアックはホッと安堵の溜め息を吐いた。


「私も欲しい」


 その姿を見てティナもアックと同じエプロンを欲しがる。


 非常に可愛らしいヒラヒラとした作りになっているのは当然として、アックとお揃いがいいと同時に、自分も家族の一員として一緒に頑張りたいからだ。


「分かった」


 アックは同じものを作り、ティナに着せてあげた。


「どう?」

「ああ。よく似合っている」


 アックはクルリと1回転して見せびらかすティナの頭を撫でながら微笑む。


 アックの言葉に嘘偽りはなく、ティナのエプロン姿はとても可愛らしく、思わず頬が緩んでしまう。


 こんな子がカフェに居たら毎日通ってしまうだろう。


「嬉しい」


 ティナは嬉しそうにはにかんだ。


「むっ」


 そこで、はたとアックは気づく。


 そういえば、ティナの私服があまりないということに。


「ティナの服を作る」

「私の? いっぱいあるよ?」

「足りない」


 アックの言葉にティナは首をかしげる。


 まだ定住していなかったので、最低限の着まわせる量と、動きやすい旅装しか揃えていなかった。


 ティナとしては、今までの生活を考えれば着回せるだけで十分な量だったが、可愛いティナが可愛らしい服を持っていないのは、アックにとっては由々しき事態。


「はぁあああああっ!!」


 アックはまずティナの採寸を行い、自分がこれまで見てきた服を思い出しながら、目にも止まらぬ早業で服を縫い上げた。


 その技術は一流の服飾職人をも凌駕している。


 アックは料理、お絵描きの他に、裁縫もかなり極めていた。


 なぜなら、可愛い服も大好きだったからだ。


 裁縫も男がやるのはバカにされる。それが強面の大男となればなおさらだ。だからこれもひた隠しにしてきた。


 今までは人形の服をこっそり作って着せるするくらいが関の山だったが、ここにはティナという最高の素材がいる。


 力を存分に発揮するには申し分ない。


 そのおかげで、あっという間に4着もの服を作り上げてしまった。


「どう?」

「妖精みたいで可愛いぞ」

「にへへっ」


 まずはシンプルに白いワンピース。全体の雰囲気を締めるためにポイントで紫をあしらっている。


 ワンピースの端を持ち上げてフリフリと動かす。


 ワンピースを着たティナはとても儚く可憐で、水上を舞う妖精のようだ。


 暖かい気候の国だから普段使いとして申し分ない。後何種類か作っておくことにした。


「魔法使い」

「凄い魔法が使えそうだな」


 お次は黒を基調としたローブに三角帽子。紫の装飾が随所に散りばめられていて、まるで高位の魔法使いのように見える。


 ティナが着ると可愛らしさが引き立つだけだが。


「派手かも」

「姫と言っても通じるだろうな」


 次は、ひらひらとした水色と白のドレス。


 ティナはドレスのあちこちを確認しながら落ち着かずに少しソワソワしている。


 ティアラを頭に乗せればどこかの国のお姫様みたいだ。いや、その気品と神々しさはそれ以上。ティナこそ、この世に生を受けた女神なのかもしれない。


「これは?」

「偉い人のお世話をする人が着る服だ」

「いいかも」


 最後は黒のメイド服。


 カフェと言うことで給仕が思い浮かんで作ってみた。

 

 エプロンと組み合わせればしっくりくる。


 こんな子が、よいしょよいしょと、一生懸命料理を運んでくれたら、微笑ましい気持ちで応援したくなること間違いなしだ。


 アックは久々に全力で裁縫ができてスッキリした。


「キュゥッ」

『ククゥッ』


 しかし、ここでスノーとシフォンたちも自分たちも何か欲しいとねだる。


「うーむ……それなら」


 色々考えた結果、アックはとあるものを縫い上げた。


「これでどうだ?」

「キュキュウッ!!」


 それを渡されたスノーは大喜びで抱きつく。


 アックが作ったのはスノーにそっくりなデフォルメされた可愛らしいぬいぐるみ。


 シフォンたちも自分たちに似たぬいぐるみを渡されて非常に喜んだ。


 ティナも欲しがったので、彼女をデフォルメした人形を作ってやった。


「アックのぬいぐるみがいい」


 しかし、受け取りながらそんなことを言われたので、恥ずかしく思いながらも鏡を見ながら、自分のぬいぐるみを作って渡した。


「キュゥッ」

『ククゥッ』


 スノーたちもアックのぬいぐるみを欲しがり、結局人数分作る羽目になった。

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