第015話 首狩り、家族と団欒する

 次の日、アックは朝からもふもふカフェで提供するメニューを考えていた。


 市場調査によってこの街で売られている食材やカフェでレストランなどで販売されている料理はすでに把握している。


 カフェではやはり果汁を絞って作られたジュースや、アイスコーヒー、そして、アイスティーなどの冷たい飲み物が人気だ。


 この辺りではその穏やかの気候を活かして色んな野菜や果物が栽培されているので、果汁を絞ったジュースが特に親しまれている。


 食事に関しては、サンドイッチが人気で、レタスとトマトとベーコンを挟んだもの、衣をつけて揚げた豚肉と刻んだキャベツを挟んだもの、ハムとキュウリを挟んだものが主に提供されていた。


 そして、デザートに関してはパンケーキが主流だ。


 また、近隣の森や山にどのようなモンスターが生息し、どのような食材が獲れるかの情報も冒険者ギルドで手に入れていた。


 それらの情報を元にどんな料理を提供できるかを考えながら試作する。


 基本的にはこの街で好まれている物をメインに提供しつつ、世界中を旅した経験を活かして、他の国や地域で食べられていた料理を提供して反応を見てみよう。


 野菜類は市場で購入して、肉は自分で獲りに行き、卵や乳はモンスター飼って原価を下げて少し安めに提供してもいいかもしれない。


 そういえば、この辺りには別の国でよく大人気だった色とりどりの冷たくて甘いアレがない。


 道具は持っているので作ってみよう。


「ただいま」

「キュウッ」

『ククゥ』

「おかえり」


 キッチンであれこれやっていると、外で遊んでいたティナたちが帰ってくる。


「うわぁ、料理がいっぱい」

「ちょっと作りすぎてしまったな」


 テーブルの上に並べられた数々の料理を見てティナが驚く。


 少し熱中しすぎたことを反省しつつ、良いことを思いついた。


「少し出かけよう」

「どこかに行くの?」

「ちょっとそこまでな」


 アックは料理を容器に入れてマジックバッグにしまい、ティナとスノーたちを外に連れ出す。


 今日は天気もいいし、丁度いい。


 アックたちは家から数分ほど歩いた場所にある、大きな木の立つ小高い丘にやってきた。


 影になっているところに敷物を敷き、試作した料理を並べて靴を脱いで腰を下ろした。ティナもアックに倣い、敷物の上に座る。


 歩いた距離は短いが、アックが思いついたのはピクニックだ。


 旅の最中に休憩や野営をして開けた場所でよく料理を食べていたが、良い景色を見ながら自然を感じつつ食べる料理は、なんだか家で食べるよりも美味しい気がした。


 いい天気だし、せっかく沢山の料理を作ったので、久しぶりに外で食べたい気分になったわけだ。


 スノーたちにも作ったサンドイッチを皿に乗せて出してやり、アックも片手で取り出して頬張る。


「美味し」

「キュウッ!!」

『クゥウウウッ』


 料理を口に入れると、皆が笑顔を見せた。


 自分が作った料理で誰かが笑顔になる。


 アックはその光景を見て嬉しくなった。間近でお客さんの笑顔が見えるカフェを経営するのは間違っていないと思えた。


「これはアイスという冷たく甘いお菓子だ」


 そして食後のデザートはアイス。


 魔導冷凍庫に入れて固めに冷やしておいた。しばらく時間が経って程よく柔らかく溶けている。


 そう、これがこの国では見かけなかったアレだ。他の国で大人気だったし、温暖なこの地域なら売れるのではないかと考えている。


「もっと」

「キュウィィィィッ」

『クゥウウウウウッ』


 少なくともティナたちには大好評だ。

 

 何度もせがまれたが、お腹を壊すかもしれないので2個までとした。


「これは遠くの国で作られたフリスビーという遊具だ。こうやって投げると遠くまで飛んでいく。その国では飛ばしたフリスビーを動物にとって来させる遊びが流行っていた」


 ご飯を食べ終えてしばらくのんびりしたアックたちは、腹ごなしに少し体を動かして遊ぶことに。


 円盤状の遊具を取り出して皆に説明する。


「まずは俺がやってみせる。こうやって投げるから、お前達はそれを取って戻ってくるんだ。最初にキャッチして俺のところまで持ってきた者にはご褒美をやる。ただし、他の人の妨害や攻撃は禁止だ」

「キュッ!!」

『クゥウウンッ』


 アックの言葉を聞いたスノーとシフォンたちが視線の間で火花を散らした。


 基本的にはスノーの方が上だが、勝負ごとでは上下関係は無効らしい。


「それじゃあ、行くぞ」


 アックが合図とともにフリスビーを軽く投げた。


 しかし、最強の傭兵の力は半端じゃなくて、フリスビーは凄まじい勢いで飛んでいった。


『……』


 その余りの速さにほぼ全員が呆然となる。


 しかし、全く動じていない存在もいた。


「キュウッ!!」


 そのスピードに追いつき、高くジャンプしてフリスビーをキャッチする白い影。


 それはスノーだった。


 スノーはフリスビーを咥えて戻ってきて、シフォンたちの前で偉そうに胸を張る。


「これがご褒美だ」

「キュウッ」


 フリスビーを受け取ったアックは、マジックバッグからビスケットを取り出し、スノーの頭を撫でてそのビスケットを顔の前に差し出した。


 スノーは嬉しそうに目を細めながらビスケットを口の中に入れて、むしゃむしゃと咀嚼する。


 シフォンたちの目の色が変わった。


 そこから従魔たちの熾烈な戦いが幕を開けた。


 とはいえ、本気でやればスノーが勝ってしまう。シフォンたちも楽しめるようにスノーは手加減してキャッチさせていた。


 まるでお兄ちゃんみたいだ。


「やってみるか?」

「うん」


 うずうずしているティナにフリスビーを持たせると、彼女は一生懸命投げる。


 アックとは違い、ひょろひょろと頼りない動きで飛んでいくフリスビー。

 

 スノーたちはそれをゆっくりを追いかけていってキャッチ。ティナの許に咥えて戻ってきた。


「ん。偉い」


 アックからビスケットを貰ったティナは、今回最初に戻ってきたスフレにビスケットをあげて撫でる。


「クゥン」


 スフレはティナに体を寄せ、気持ちよさそうに鳴いた。


「疲れた」


 満足するまでフリスビーを投げたティナ。


「そろそろ帰ろう」

 

 ピクニックを堪能したアックたちは帰路に就いた。

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