第014話 首狩り、新しい家に移り住む

「今日からここが俺たちの家だ」


 店舗兼自宅の前にして、アックが感慨深く建物を見上げた。


「私たちの家!!」

「キュウウンッ!!」

『クゥッ』


 ティナとスノー、シフォンたちが嬉しそうに飛び跳ねる。


 毎日少しずつ街の市場調査を行い、数週間ほど経った頃、遂にもふもふカフェの店舗兼自宅の内装の修繕と改装が終わり、家具を受け取って住める状態になった。


 宿を出て今日から自宅に移り住むつもりだ。


 屋内に入ると、自分が思い描いた通りの店舗スペースが広がっていた。


「どうだ?」

「イメージ通りだ。感謝する」


 感想を求めるクラーフにアックは頭を深々と下げる。


 ここまでしっかりときっちり仕上げるためには相当な技術力が必要だ。その丁寧な仕事に対してアックは感謝の気持ちでいっぱいになった。


「礼などいらん。俺は仕事をしただけだ。報酬さえ払ってくれればいい」


 クラーフは恥ずかしそうに顔を逸らしながら返事をした。


「受け取ってくれ」

「……確かに。それじゃあ、失礼する」


 報酬を受け取り、中身を確認したクラーフはそそくさと店舗から出ていく。


「開店したら招待させてもらう。ぜひ来てくれ」

「気が向いたらな」


 その背にアックが声を掛けると、クラーフは振り返りもせずに手をヒラヒラとさせて去っていった。


 アックは忘れずに誘うことを誓った。


「まずは掃除しよう」

「手伝う」

「キュッ」

『クゥッ』


 クラーフが内装を手掛けた時にある程度やってくれていたようだが、やはりこれからお世話になる家に感謝を込めてきちんと綺麗にするところから始めたいところだ。


 ティナたちも意気込んでいる。


「上の方の掃除が終わったら呼びに行く。庭で遊んでてくれ。くれぐれも遠くにいかないようにな」


 ティナたちは体が小さいので建物の上の方は届かない。


 アックが上の方をやる前に、それより下の床や壁の掃除をしても、汚れが落ちてきて二度手間になってしまう。


「分かった。いこ」

「キュキュウッ」

『クゥッ』


 ティナはアックに従ってスノーたちを連れて庭に出る。


「はしゃぎすぎて転ぶなよ」


 アックは1人で上の方から掃除を始めた。


 それから1時間程して庭に出ると、走るティナをスノーたちが追いかけ、追いついた後にゆっくりと地面に倒して皆が群がってティナの顔をペロペロと舐める姿が目に入る。


 その姿が尊くてティナたちが近づいてくるまで眺めてしまった。


「アック」

「あ、あぁ、終わったぞ」


 ティナの声で我に返り、皆を連れて家の中に入る。


「それじゃあ、この辺の壁を拭いてってくれ」

「頑張る」


 今度はティナたちも一緒に掃除を開始した。


 ティナが小さな体で一生懸命壁を拭き、スノーやシフォンたちがどうにか雑巾を使ってどうにか床をキレイにしようと奮闘する姿を見ると、なんだか優しい気持ちになる。


 その姿を見届けた後、アックも掃除を再開した。


「ふぅ……綺麗になったな」

「ピッカピカ」


 皆で掃除をしたおかげで屋内はすっかり綺麗になった。


 マジックバッグに入れていた家具やインテリアを取り出して必要な場所に配置していく。


 それだけで生活感が増した。


「これで終わりだ」

「やっとだね」

「そうだな」


 すっかり家具が配置された室内を見てティナとアックが笑いあう。


 2人は本当の意味で自分たちが安らげる場所を手に入れて嬉しかった。


「それじゃあ、風呂に入ろう」

「うん」


 しかし、新しい生活を始める前に、掃除をして汚れて汗だくになった体を綺麗にすることが先決だ。


 湯船にお湯を溜めている間に体を洗う。


「あははっ。くすぐったい」

「キュゥッ」

『クックゥッ』


 ティナを子供でも大丈夫な柔らかいスポンジで優しく擦ってやり、スノーたちは手でワシャワシャと汚れを落とし、最後に自分の体をゴシゴシと硬めのタオルで強めに擦って、お湯で汚れを綺麗に流した。


『あぁ~』

「キュ~」

『クゥ~』


 そして、自宅で初めてのお風呂。


 皆で湯舟に浸かって温まる。


 各々がとても幸せそうな顔をしていた。


『ゴクゴクゴク……ぷはーっ!!』


 風呂上がりには冷やしておいた牛乳を飲んで皆そろって喉を潤す。


 火照った体の中を冷たい液体が通り抜けて心地がいい。


 やはり風呂上がりの牛乳は格別だ。


 その後、新しい生活の始まりとして少し豪勢な料理を作り、皆でワイワイ楽しく食べた。


 満腹感と今日1日頑張った疲労で程よい眠気が襲ってくる。


 歯を磨き、アックがティナとスノーたちを抱えてベッドに運んだ。


「ふかふか~」

「キュキュゥッ」

『クゥッ』


 皆をベッドの上に下ろすと、彼女たちは真新しいベッドの感触と匂いを堪能するように体をマットレスに押し付ける。


『すー……すー……』


 しかし、ものの数分で動かなくなり、静かな寝息を立て始めた。


「お疲れ様」

「ううん……」


 アックがその姿を見てティナの頭をひと撫ですると、彼女はくすぐったそうに頬を緩ませて寝返りをうった。


 皆を起こさないようにアックもベッドに横になる。


 ついに店舗兼自宅の準備は整った。


 開店の準備が整うまであともう少しだ。最後まで皆と力を合わせて頑張ろう。


 そんなことを考えていると、アックの意識はいつしか闇に飲まれていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る