第013話 首狩り、家族でお出かけする

「これは……エルダートレントか。どうしたんだ?」


 次の日、木工職人の所にエルダートレントの死体を持ち込むと、一瞬だけ店主が目を見開いた後、アックに尋ねる。


「北の森で獲ってきた」

「そうか。いいだろう。家具でもなんでも作ってやろう」


 もふもふカフェに使用する木材を自分で獲ってきた上に、街の困りごとまで解決してしまったアックを気に入った店主。


 少しだけ頬を緩ませて仕事を引き受けた。


「これがデザイン画だ」

「お前さん器用だな。ワシはクラーフ。イメージ通りに仕上げてやる」

「よろしく頼む」


 店舗スペースに必要な椅子やテーブルだけでなく、内装の修繕や改装、自宅用のベッドやテーブルや椅子、果ては食器まで請け負ってくれることになった。


 他にも必要な素材は渡しておいた。


「街を見て回ろう」

「うん」

「キュウッ」

『クゥッ』


 ファームレストに辿り着いた後、必要な物を揃えただけで街を見て回れていない。


 この街の地理を知るため、散策がてら皆で街を歩いて回る。大分元気になったので今日はティナもアックの服端を掴んでトコトコと後をついていく。


 アックはそのついでに市場調査をする。


 どんな食材が売りに出されていて、どんな料理が出されていて、どんな物がこの街の人たちに好まれるのか、そして、それらの値段など、それらを知らずにもふもふを売りにしたカフェを開いても、なかなかお客さんに来てもらえないだろう。


 まずはまだ回れていない市場から。


 市場には所狭しと出店が並んでいて、沢山の野菜や果物から漬物や発酵食品などの加工品、そして、香辛料や調味料まで様々な商品が取り扱われていた。


「いらっしゃい、いらっしゃい!! ウチの野菜は絶品だよ!!」

「良い肉入ってるよ!! 旦那見てっておくれよ!!」

「南国からはるばる取り寄せた香辛料はいかがですか!!」


 呼び込みの声がまるで戦場の雄叫びのように至る所から聞こえてくる。


 第二の都市と言うだけあって市場も活気に溢れていた。


 アックは、冷かしたり、商品を買ったりしながら、値段を商品をメモしていく。


 気候が穏やかで温かい地域のため、果汁を使った冷たいジュースの出店をよく見かけた。その中から数店を選び、ジュースを購入して飲み比べてみる。


 どの店もその店の味を出すために様々な工夫をしているのが窺えた。


 皆で分け合いながら色んなジュースを飲んだ。


「美味し」

「キュッ」

『クゥッ』


 ティナたちはどのジュースも美味しそうに飲んでいる。


 ――くぅ~。


「お腹空いた」

「何か食べよう」


 しばらく歩いていると、ティナのお腹の虫が鳴く。


 色んな肉の串焼きだったり、スパイシーな香りのする汁物だったり、色んな食欲をそそる匂いが漂ってくるので仕方ない。


 これも複数の店で様々な種類の料理を買い、皆でシェアして食べた。


 どれも美味しかった。


 その後も市場を見て回ったが、やはり自分たちのライバルになりそうなカフェで提供されているメニューが知りたい。


 アックたちは市場を後にしてレストランや食事処が多い場所を探して街を歩く。


「そこのお父さん。娘さんにプレゼントはどうだい」


 その途中で、女の子が身に着けるような可愛らしいアクセサリーを売っている出店の店主に声を掛けられた。


 アック自身、身に着けたいわけではないが、こういったアクセサリーやぬいぐるみなんかも好きだ。ずっと眺めていたい気分になる。


 店主は露出が多く、男の視線を引き付けるような格好をしている。


 しかし、アックは全く興味を示すことなく、一つのアクセサリーに目を引かれた。


「ん……これは」


 それは金色の月をモチーフにした髪飾り。


 見た瞬間、真っ白な髪のティナに似合いそうだなと思った。


 スノーたちにはスカーフがある。ティナにも装飾品があっても良いだろう。


「それをくれ」

「毎度」


 アックは値段も確認せずに髪飾りを購入した。


 店主としては、自分の武器に全く反応しないアックが好ましいと同時に、なんだか負けたような複雑な気持ちになった。


「これを」

「いいの?」

「ああ」

「つけて」

「分かった」


 アックがしゃがんでティナに髪飾りを付けると、思った通り良く似合う。


 ひと月以上旅をしながらきちんと栄養をとったティナは、以前よりもふっくらとして肉付きが良くなり、血色も良くなっていてさらに可愛さに磨きをかけていた。


 そんなティナの可愛らしさがさらに引き立つ。


 その可愛さに店主は自分の敗北を認めざるを得なかった。


 母親に連れられて一緒に歩いてきた男の子や、通りがかった子供たちが、すれ違いざまにティナに目を奪われる。


 しかし、アックの冷たい視線に睨みつけられた瞬間、竦みあがってそそくさとその場を離れていった。


 ティナに近づく不届きな輩は許さん。


 アックは自分を倒せるような強い男じゃなければ認めるつもりはない。


 アックたちは再びカフェを目指して歩き始める。


 その後、カフェやレストランをはしごして市場調査を進め、全員がお腹いっぱいになって宿に帰ることになった。


 夕食を残すのは悪いので、全部アックが食べた。


「うっぷ」


 最強の傭兵でも食い過ぎはどうにもできなかった。

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