第012話 首狩り、家族とお絵描きをする

 次の日。


 アックは朝から宿の部屋にある小さな机に、その大きな体を向かわせていた。


「何してるの?」


 起きてきたティナが横から顔を覗かせて尋ねる。


 突然現れたティナにアックは体をビクリと振るわせた。


「……絵を描いている」


 驚きを隠しながら、どうにか返事をする。


 ティナの気配に気づかない程集中していたらしい。


 アックは強面な見た目に反して、絵を描くことも好きだった。


 傭兵団の旅先でよく人目を盗んでは、見かけたもふもふモンスターを描いたり、未来のカフェを妄想して色々描いた。


 今日は絵に描きながら、もふもふカフェの内装や使用するテーブルや椅子などのデザインを考えていた。


「上手。凄い」


 ティナがアックが描いているものを見て目を輝かせる。


 そこには、何パターンかのカフェの店内の様子や、何種類もの椅子やテーブルが描かれていた。


「変だと思わないのか?」


 アックとしては、自分みたいな大柄で強面な男が絵を描くのは、可愛いものが好きなのと同様に、恥ずかしいことなのだと思っていた。


 現に傭兵団に入って成長期が来て体が大きくなった後、団員に笑われたことがある。


 その団員は少し揶揄うくらいの気持ちだったのかもしれないが、アックの心は大きく傷つき、それ以来人前で絵をかいたり、もふもふと触れ合うことをしなくなった。


 今回もティナが起きる前にこっそり描いていた。


 ティナはそんな子じゃないとは思いつつも、笑われてしまうんじゃないかと気が気じゃない。


 戦場では恐怖など感じたことがないのに、また自分が好きなものをバカにされるかもしれないと思うと、怖くて仕方なかった。


「何が?」


 アックの言っていることが分からず、ティナは不思議そうな顔をする。


 ティナにしてみれば、あんなに強い上に、絵を描くこともできるアックは、ただただ凄いと感心するだけだ。


 尊敬することはあっても馬鹿にするようなことはない。


「いや、いいんだ」


 アックは安堵しながら首を振る。


 やはりティナは人を馬鹿にするような子じゃなかった。


 そのまま育って欲しいので、アックはそれ以上何も言わなかった。


 そして、ティナの前では自分の好きなことを隠さずにやっていくことに決めた。


「やってみるか?」

「いいの?」


 うずうずしているティナを見て道具を差し出すと、彼女は躊躇いがちにアックを見上げた。


「ああ」

 

 ティナにはぜひ絵を描く楽しさを知ってもらいたい。そして、できれば好きになってくれたら嬉しい。


 どこにも断る理由はない。


「やった」


 ティナは嬉しそうに道具を受け取り、ベッドの上に寝そべって楽しそうに何かを描き始める。


「キュウ?」

「ククゥ?」


 スノーやシフォンたちが起き出して、ティナの傍に近寄り、興味深そうに彼女の絵を覗き込む。


「お前たちもやってみるか?」

「キュウキュウッ」

『クゥッ!!』


 その様子を見てスノーたちに呼びかけると、一斉にアックの元に駆け寄ってきて、やりたいという意思を伝えてくる。


 アックはマジックバッグから道具を取り出して皆の前に置いた。


 スノーたちは口に咥えて器用に紙に絵を描き始める。


 モンスターが描く絵にも興味がある。どんな絵ができるのか楽しみだ。


 皆が絵を描く光景をしばらく微笑ましく見守った後、アックも再び家具やインテリアなどのデザインに没頭し始めた。



「できた」


 しばらく経った頃、ティナが紙を持ってやってくる。


 そこにはアックとティナらしき2人の人物と、スノーやシフォンたちビッグテイルらしきモンスターたちが描かれていた。


 技術は当然未熟だけど、全員笑顔で楽しそうにしていて、とても幸せそうで、心が温かくなる絵だ。


 ティナが今の生活を気に入ってくれているのだと分かり、アックは嬉しくなった。


「上手だ」

「えへへ、嬉しい」


 頬を緩ませてその大きな手でティナの頭を撫でると、ティナは嬉しそうにはにかんだ。


「キュウッ!!」

『クククゥッ!!』


 ティナを皮切りにしてスノーとシフォンたちビッグテイルたちも絵を口に咥えて持ってくる。


 スノーは、シンプルな丸と三角と四角で構成されている絵で、シフォンはなんだかぐしゃぐしゃに書き殴ったような絵、マフィンはキュビズムのような不可思議な絵、スフレは原色が多くて力強い人の形をした何かが描かれた絵、ロールは色んな色や線が鮮やかに描かれた絵、そしてトルテは紙が真っ黒に塗りつぶされたなんだか闇を感じる絵。


 どれも非常に個性的で反応に困る。


 ただ、皆ニコニコとした表情をしていることから、絵を描くことを楽しんでくれたんだと思う。


 それが一番大事だ。


「皆上手だぞ」


 アックはそう言って全員を撫でる。


「キュウウウッ!!」

『クゥウウウッ!!』


 スノーたちは嬉しそうに鳴いて飛び跳ねた。


 褒められたティナとスノーたちは再び新しい絵を描き始める。


 アックもデザインを再開した。


「ふぅ」


 ひと段落して一息つくと、周りがやたらと静かなことに気づく。


 振り返ってみると、全員が絵を描いている途中で寝落ちして、気持ちよさそうな寝顔を見せていた。


「ふふっ」


 その様子が微笑ましくてつい笑い声がこぼれる。


 アックはその様子を1枚の絵に収めるべく、筆を取った。

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