第011話 首狩り、新しい家族を迎える

 もふもふを助けられて、材料も手に入ってめでたしめでたし。


「それじゃあ、達者でな」


 アックはエルダートレントの死体をマジックバッグにしまい、ビッグテイルに声をかけて背を向ける。


「クゥッ、クゥッ」


 しかし、ビッグテイルたちがアックを呼び止めるように鳴いた。


「ん、どうした?」

「クゥクゥ、クゥ!!」


 振り返ると、ビッグテイルたちが何かを訴えかけるように群がる。


 その気持ちはアックのテイマーとしての素質を通じてなんとなく伝わった。


「一緒に連れて行って欲しいのか?」

「クゥッ」


 アックの質問にビッグテイルたちはみんな揃って頷いた。


 ビックテイルたちはモンスターの中でもか弱い存在。


 彼らの周りには脅威で溢れていた。


 同じモンスターだけでなく、冒険者になりたての初心者たちに与しやすいモンスターとして狙われる日々。


 そんな毎日怯えて過ごす毎日が辛くて苦しくてどうにか抜け出したかった。


 そして今日、強いモンスターに襲われ、死によってそんな生活が終わりかける。でも、何の因果がさらに強い人間によって助け出された。


 この人の傍なら安心して暮らすことができる。


 ビッグテイルたちの生存本能が、そう訴えかけていた。


 アックにとってその話は願ったり叶ったりだ。


 可愛いもふもふモンスターをテイムできるのは嬉しいし、望むところだ。


 断る理由はない。


「分かった。ただし、テイムさせてもらうけど大丈夫か?」

「ククゥッ」


 5匹のビッグテイルは条件を簡単に受け入れ、テイムモンスターとなった。


「それじゃあ、しっかり摑まってるんだぞ?」

『クゥッ』


 アックは3匹のビッグテイルを抱え、2匹のビッグテイルを肩に乗せる。


 全速力ではビッグテイルたちが耐えられない可能性があるので、三割ほどのスピードで走り出した。


『クゥウウウウウッ!?』


 それでもビッグテイルたちにとっては相当なスピードで、吹き飛ばされないように必死にしがみついていた。


 帰りは15分ほどかけて帰ってきたアック。


 門番はアックの姿を認めるなり、声を掛けてきた。


「おおっ。無事だったか。随分早く帰ってきたが、もしかしてエルダートレントは倒せなかったのか?」


 アックが出発して2時間も経っていない。


 あまりに速すぎて門番はもしかしたら失敗したのではないかと心配になった。


「いや、倒したぞ」

「本当か!? 何か証拠はあるか?」

「これはエルダートレントの体の一部だ」

「……確かにこれはエルダートレントに違いない。ありがとうな。誰も倒せなくて困っていたんだ」


 その速さに信じきれなかった門番だが、マジックバッグの中から取り出されたエルダートレントの枝を見て、アックの言っていることが本当だと理解し、頭を下げる。


 稼ぎ場の1つがないことで初心者冒険者たち干上がってしまうところだった。


 街の一員として心を痛めていたが、自分にできることは何もない。


 歯がゆい思いをしていたが、遂にその問題が解決された。


 嬉しさもひとしおだ。


「エルダートレントの死体が必要だっただけだ。気にするな」

「ははははっ。それでもさ」


 門番はアックの背中をバシバシと叩く。


「ん? そいつらはビッグテイルか? どうしたんだ?」


 門番はようやくアックがビッグテイルを肩に載せ、抱えていることに気づいた。


「テイムした従魔だ」

「そうか。引き留めて悪かったな。もう行ってくれ。エルダートレントの討伐報告と従魔登録を頼むぞ」

「ああ」


 門番から解放されたアックは冒険者ギルドに寄って従魔登録を行った後、エルダートレントの討伐報告を行うと、ギルド内は蜂の巣をつついたような騒ぎに。


 せっかく早く帰って来たのにその騒ぎに巻き込まれたせいで、少し宿に帰るのが遅くなってしまった。


「ティナ」

「おかえり」


 個室に帰ると、ティナがアックにしがみつく。


「それは?」


 満足するまでしがみついてアック成分を補充した後、身体を離したティナはアックが抱えているビッグテイルに気づいた。


「ビッグテイルたちだ。今日から家族になった」

「そう。私はティナ。よろしく」

「キュウッ」


 アックがビッグテイルを床に下ろすと、ティナとスノーが挨拶する。


「名前はシフォン、マフィン、スフレ、ロール、トルテだ」


 アックは甘いスイーツも好きで作ることもできる。5匹のビッグテイルの名前はふんわりした印象のお菓子の名前からとった。


「クゥッ」

「クッ」

「ククゥッ」

「クックゥッ」

「クゥウッ」


 シフォンが黄色のスカーフ、マフィンが青色のスカーフ、スフレが緑のスカーフ、ピンク色のスカーフがロール、黒いスカーフがトルテだ。


 皆が礼儀正しくティナに挨拶を返した。


「キュキュウッ」

『クゥッ』


 その後、小さなスノーが自分より大きなビッグテイルの前で偉そうに話をして、上下関係を教え込む。


 ヴォーパルバニーと恐れられるスノーの方が圧倒的に強いので当然だけど、見た目はスノーの方が弱そうなので、微笑ましく見える。


 その後、解散となり、シフォンたちがティナの許に群がる。


 ティナはくすぐったそうに微笑みながらシフォンたちを撫でた。シフォンたちは気持ちよさそうに目を細めている。


 シフォンたちはすぐに受け入れられた。


 その様子にアックも安心した。

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