第009話 首狩り、材料を探しに行く
しかし、店舗兼自宅を手に入れてもそのまま住めるわけじゃない。
家に住むにあたって必要な物は沢山ある。
家具やインテリア、魔道具、キッチン用品、お風呂やトイレ用品、洗濯用品、その他、様々だ。
買い物をする必要がある。
そこで、その前にアックたちは一旦昼食を食べて休息をとった。
午後からは生活に必要な品物を色んな店で購入して回る。
ただ、家具とインテリアと食器類はどうしてもこだわりたい。特にティナやスノー、そして未来の客が使用する物は既製品ではなく、特注で揃えたかった。
「ここか」
アックは商業ギルドで教えてもらった木工職人の店にやってきた。
この街で一番と名高い腕の持ち主で、気に入った人物にしか作らないという。
「たのもう」
アックは扉を開けて店内に足を踏み入れる。
店の主人は店内に造られた作業スペースで仕事をしていた。
流れるような手際は一流の職人であることの証左。
眼光が鋭く、まるで猛禽類を思わせる。すでに老齢を迎えているにもかかわらず、筋骨隆々でいささかも衰えているようには見えない。
「……」
アックはその老人に自分と似たものを感じ取った。
店主はアックを一瞥した後、視線を戻して作業を続けながら尋ねる。
「なんの用じゃ」
「俺はアック。最高の家具を作ってもらいたい」
「帰れ」
用件を伝えると、店主はけんもほろろに追い返そうとする。
「この子達ともふもふカフェで使う家具は最高じゃないと駄目なんだ。この通りだ」
アックはティナとスノーを下ろし、頭を深々と下げた。
「なんじゃと?」
話を聞いた店主は作業を止め、片眉を釣りあげてアックの方を向く。
「この子達ともふもふカフェで使う――」
「そうではない。その、もふもふカフェとはなんなのじゃ?」
店主はもふもふという響きに心を引かれ、詳細を尋ねた。
「この子のようにもふもふしたテイムモンスターが店内にいて触れ合うことができるカフェのことだ」
アックはスノーに視線を向けて説明する。
「なんと、そのようなカフェが存在するというのか……」
店主はまるで雷に打たれたような衝撃を受けた。
なぜなら、この店主もまた、その見た目とは裏腹にもふもふ好きだったからだ。
アックが感じた自分と同じものとは、実はその実力ではなく、もふもふ好きの同士としてシンパシーだった。
店主はそのようなカフェの話など聞いたことがない。
テイムの素質はなかったし、自分のような強面な男がもふもふの可愛いモンスターが好きなどとは今更言い出せないほどに歳を重ねてしまった。
しかし、もふもふカフェなら、カフェに行くという名目でもふもふと触れあうことができる。
それは店主にとって願ってもない話だった。
「まだない。これから開くつもりだ」
「そうか……よかろう。じゃが、残念ながらちょうどいい木材がない。お主が最高の材料を持って来れば、ワシが最高の家具でもなんでも作ってやろう」
そんな夢のような場所を作るためなら協力するのも吝かではない。
しかし、つい先日、一番いい材料を使い切ってしまった。
材料がなければ何も作ることができない。
ただ、何の条件もなしに依頼を受けたと思われては、今後他からの依頼を断るのが面倒になるので、材料を持ってくることを条件とした。
「礼を言う」
アックは引き受けてくれたことに感謝して再び頭を下げた。
店を辞した後、情報を求めて冒険者ギルドへと足を運ぶ。
「家具の素材として最高の材料はなんだ?」
「そうですね。やはりエルダートレントの死体ではないでしょうか?」
エルダートレントはかなり強い傭兵や冒険者ではなければ、狩ることが難しい樹木の姿をしたモンスター。
非常に丈夫で、耐火性もあり、建材や家具の材料としては最高ランクの材料だ。
「この辺りに生息地はあるか?」
「確か、北の森に出現したかと。討伐依頼が出ていました」
「そうか。助かった」
情報を仕入れたアック。
家の購入や生活に必要な物の購入、そして家具の発注など、色々なことに時間が掛かったので、もう夕暮れ。
その日は昨日と同じ宿に泊まり、明日エルダートレントを倒しに行くことにした。
「今日は留守番をしていてくれ」
次の日、アックはティナを連れていくのは危険だと判断して、1人で北の森に行くことにした。
ティナは渋ってアックの足にギュッとしがみつく。
「すぐに帰ってくる」
アックは一度ティナを足から離し、しゃがみ込んで目線を合わせ、その大きな手でティナの頭を撫でる。
おそらく連れて行ったとしても間違いなくモンスターからは守り切ることはできる。
しかし、何事にも不測の事態はある。森にある脅威はモンスターだけではない。
天候だったり、毒のある草木だったり、アックには無害でも、ティナには有害なものがある可能性だってある。
そんな危険のある場所にティナを連れていくことはできない。
「……分かった」
ティナはアックと離れたくなかったが、森では確実に足手纏いだと自覚し、それ以上我儘を言うのを止めた。
アックは宿の人にくれぐれもティナのことを頼んで、北の森を目指して街を出立した。
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