第007話 首狩り、目的地に辿り着く

「あれがカーム王国の第二の都市ファームレストか」


 国境の街を出立してから数十日。


 行く先々で恐れられたり、道中でモンスターに襲われたりしつつ、時折ティナの体をゆっくり休めるために街により、宿屋に宿泊拒否されて兵士長の家に泊めてもらいながら旅をしてきた。


 そして、ようやく目的地の街を一望できる小高い丘に辿り着く。


「いい雰囲気」

「そうだな」


 第二の都市というだけあって賑わっていて、そこで暮らす人たちには笑顔が溢れ、雰囲気も穏やかで治安も良さそうだった。


 話に聞いていた通り、梅雨などもなく、カーム王国の気候は安定していて、寒すぎず暑すぎない気温で過ごしやすい環境だ。


「行ってみるか」

「うん」


 アックたちは早速街に入ってみることにした。


 街の門が近くなると、いつもなら周りの人たちが怯えるのだが、ここの人たちはおおらかなのかアックが居ても気にしない。


「おお、デカいな。この街にきた目的は?」


 門番もアックの順番が来ても恐れることなく、普通の態度。逆にアックが困惑することに。


「……移住だ」

「そうか。街に新しい住人が増えるのは大歓迎さ。そのウサギは?」

「従魔だ」

「なるほど。従魔は冒険者ギルドに登録して従魔の証を付けてもらう必要がある。案内を付けるから登録してくれ」

「分かった」


 アックは拍子抜けするほどあっさりと街の中に入ることができた。


 付けられた兵士の案内で冒険者ギルドに辿り着く。


「こんにちは。どのようなご用件ですか?」


 受付嬢からにこやかに挨拶され、ずっと困惑しっぱなしだ。


「冒険者登録と従魔登録を頼む」

「承知しました」


 冒険者登録をするのは、従魔登録に必要だからというのもあるが、モンスターの情報を得るためというのが大きい。


 冒険者は傭兵と似た職業で、モンスターの討伐や調査、アイテムの収集、雑用など、傭兵よりも多岐にわたる仕事をこなす、何でも屋に近い。


 カーム王国は周辺国家と同盟関係にあり、戦争が少ないため、冒険者として活動している人が多く、モンスターの情報はここに集まってくる。


 いち早くもふもふモンスターの情報を手に入れてテイムするんだ。


「はい、問題ございません。ギルドカードと従魔の証を発行いたしますので少々お待ちください」


 手続きが受理され、アックはギルドカードと真っ赤なスカーフのような従魔の証を手に入れた。


「キュウッ」


 早速付けてやると、スノーは得意げに胸を張る。


「おい、あれって首狩り兔じゃないか?」

「確かにそっくりだな」

「いやでも首狩り兔は誰かに懐いたりしないだろ」

「ましてや従魔になんてなるわけない」


 ティナとは反対側の肩に乗っているスノーを見て、ギルド内に居た冒険者たちがヒソヒソ話す。


 しかし、あんなに恐ろしいヴォーパルバニーが誰かの従魔になっているわけがない、という先入観からその正体がバレることはなかった。


「買い取りも頼む」

「承知しました。量はどの程度になりますか」

「マジックバッグにそれなりに入っている」

「それでは解体倉庫までご足労お願いします」

「分かった」


 アックたちは受付嬢の後をついていく。


「すみません、こちらの方が大口の買い取り依頼されたいそうなので対応お願いします」

「おうよ」

「それでは、後は指示に従ってください」

「ああ」


 解体場に到着し、解体職員に渡りをつけると、受付嬢は戻っていった。


「子連れのあんちゃんか。変わってんな。それじゃあこっちに来てくれ」


 アックたちは職員に案内され、何もない開けた場所に連れてこられる。


「ここに出してくれるか?」

「分かった」


 指示に従って道中に狩ってきたモンスターたちを取り出した。開けた場所が山積みになったモンスターで埋め尽くされる。


「うぉおおっ!? 高ランクモンスターばっかりじゃねぇか。あんちゃん何者だ?」

「元傭兵だ」

「そうか。さぞ名のある傭兵なんだろうな」


 驚いた職員だったが、アックの返事を聞いて納得顔になった。


「これだけあると今日は終わらねぇ。明日また来てくれるか?」

「分かった」


 引き換え証を受け取り、アックは受付に戻る。


「商売したいんだが、どうしたらいい?」


 カフェを開くまでに必要な手続きの詳細までは分からなかったので、受付嬢に尋ねた。


「商業ギルドに相談されてみてください」

「分かった……それと、どこか従魔も泊まれる宿はあるか?」

「そうですね。それでしたら――」


 外を見たら日が沈みそうだったので、商業ギルドでカフェの相談をするのは明日にして、今日の宿を確保することにした。


 受付嬢に紹介された宿で無事に部屋を取ることができたアック。


「美味い」

「うん、美味し」

「キュッ」


 出された夕食は美味しく、受付嬢が紹介してくれたのも納得の味だったし、カフェを開くにあたって勉強になった。


 ウトウトしているティナとスノーをお風呂に入れ、自分も身綺麗にした後、ティナとスノーが眠るベッドに潜り込む。


 ようやく目的地にたどり着いた安堵と、ティナとスノーの温かさから、いつもよりも深い眠りへと誘われた。

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